610 両手を潰す

数人のボディーガードは女性一人を集団で襲うのは良くないと思っていたが、結局は雲原明と木村桃の命令に従うしかなく、選択の余地はなかった。

さらに木村桃が直接指示を出したことで、彼らは安心して行動に移った。久保田家のボディーガードたちは一斉に加藤恋に向かって突進し、手に持った鉄パイプを振り上げた。

予想外のことに、加藤恋は避けようとせず、ただゆっくりと手を上げた。すると突進してきた男たちが突然後ろに倒れ始め、それぞれの顔が青紫色に変わり、唇が黒ずんで明らかに中毒症状を示していた。

「何をしているの!早く行きなさい、あの女に機会を与えないで!」目の前の光景に木村桃は焦り、急いで雲原家のボディーガードに叫んだ。カジノを経営する雲原家のボディーガードは彼女の家のものより遥かに強かった。加藤恋が何をしたのか見えないうちに、彼女の部下たちが一斉に倒れてしまった。

皆は不思議に思ったが、加藤恋がいつの間にか手に小さな粉薬を持っていることに誰も気付かなかった。

雲原明は何も言わなかったが、彼らが加藤恋に手を出すことを黙認した。雲原家のボディーガードたちも次々と前に出て、次の瞬間には加藤恋に殴りかかろうとした。

加藤恋は体を後ろに傾け、まるで怪我をして倒れそうな様子を見せた。木村桃は加藤恋の動きを見て、目に興奮の色を隠そうともしなかった。

誰も気付かなかったが、加藤恋の目には冷たい光が宿り、木村桃と雲原明を睨みつけていた。

木村桃は興奮のあまり、木村明のことなど気にも留めず、その可愛らしい顔は完全に歪んでいた。

「やっちゃいなさい!思いっきり殴って!ここから生きて出られないようにして!」

雲原明も興奮を隠せず、ついに木村錦を抱いていた手を放し、我慢できずに加藤恋に向かって歩き出した。

「みんな下がれ、俺がやる!」

雲原明は足を止めず、木村桃も近寄ってきた。黒服の群れの中で、彼らは加藤恋が血まみれになる様子を期待していた。

「あなた強いんでしょう?今度は反撃してみなさいよ!」木村桃は狂ったように笑った。「あなたが何か大したものだと思っていたわ。でも今じゃ殴り殺されそうね、かわいそう。」