百里紅裳は足音を聞いて、中村少華だと思い、すぐに顔を上げ、柔らかな頬に甘い笑みを浮かべた。
しかし顔を上げてみると、そこにいたのは中村沛里だった……表情は一瞬にして失望に変わった。
いや、正確に言えば、絶望と言うべきだろう。
中村沛里は口角を引きつらせた。「……」
自分の顔はそんなに醜いのか?
名門中村家の五男として、中村次男の若様や一橋家のあの人ほど際立ってはいないが、それでも風雅な紳士だというのに。
病院の看護師たちや未婚の女性たちは、こっそりと彼のことを「ダーリン」と呼び、ファンクラブまで作って、SNSで熱心に応援していたのに。
なぜこの小娘にだけ、こんなにもショックを与えてしまうのか?
中村沛里は口をへの字に曲げ、立ち去ろうとした時、突然悲鳴が聞こえた。「あっ!」