第317章 私はあなたのお母さんじゃない

中村楽は話を聞いているうちに、表情が真剣になってきた。「つまり、大村つきは今、この辺りの無人地帯に連れて行かれた可能性があるということですか?」

中村桑の話から、中村楽はそのような結論に至った。そしてその可能性が高いことを深く理解し、心がより重くなった。

中村桑は頷き、意味深な口調で言った。「私たちは札幌市内を何度も探しましたが、見つかりませんでした。」

「ナンバープレートを付け替えた車も調べましたが、監視カメラに最後に映っていたのは、無人地帯の端でした。」

もし大村つきたちが札幌市を離れていたら、中村桑たちにも見つける術はない。

中村楽はその場に立ち尽くし、不穏な空気を纏いながら、少し間を置いて言った。「池田隊長に連絡してきます。皆さんは引き続き捜索を続けてください。」

中村桑は頷いたが、何か言いたげな様子だった。中村楽には言いづらいことがあるようだった。

中村楽は外に出て伊藤哲に電話をかけたが、話し中だった。おそらくまだ忙しいのだろう。そこで彼女は休憩室にいる斉田あきひろを探しに向かった。

途中で携帯が鳴り、中村楽は伊藤哲からの折り返しかと思ったが、知らない番号だった。

思わず眉をひそめた瞬間、受話器の向こうから甘い声が聞こえてきた。「ママ、私よ!」

中村楽は「……」

この声は……鈴木唯一ではないか!

中村楽は眉間を指で押さえながら、辛抱強く言った。「お嬢さん、私はあなたのママじゃありません。どうしてずっとママって呼ぶの?」

自分の娘はすでに冷たい灰となっているのに、鈴木静海の娘は彼女をずっとママと呼び続けている。

これはなんという因縁なのか!

鈴木唯一はすぐには答えず、数秒後に小さく泣き始めた。「ママ、やっぱり私のことを要らない子だと思ってるんでしょう!」

中村楽のこめかみがズキズキし始めたが、なんとか辛抱強く諭した。「そういうわけじゃないの。私はここに仕事で来ているの。」

「本当ですか?」

鈴木唯一はその言葉に少し慰められた様子で、甘い声で尋ねた。「ママ、札幌市に出張に行っただけで、私を捨てたわけじゃないんですよね?」

「出張よ。」

中村楽は良心に背いて答えた。

本当は『あなたなんて要らない』と言いたかった。

でも、そう言ったら自分の心が許さないような気がした。そして、そんな酷いことを言う勇気も出なかった。