第720章 極上の美しさ

「後ろに座って。」

一橋貴明の声は不機嫌で、眉と目には冷たさが滲んでいた。

この女、いつも彼を誘惑しようとしているくせに、今彼と近距離で座る機会があるのに、何をごちゃごちゃ言っているんだ？

大豆田北は一橋貴明に長年仕えており、彼の感情を察知できないはずがなかった。すぐに敬意を込めて言った。「鈴木お嬢さん、助手席には書類が置いてありますので、後ろに座っていただけますか。」

鈴木月瑠は困ったような表情で、眉をひそめながら身をかがめて車内に入った。

彼女は体をドアに寄せ、隣の男からできるだけ離れようとした。

一橋貴明の顔は冷たさに満ちていた。

この女、誘っておきながら拒むような態度をますます強めている。本当にこれで彼が彼女を見直すと思っているのか？

鈴木月瑠は隣に移動式冷蔵庫でも置かれているかのように感じ、冷たい風が彼女に向かって吹きつけていた。彼女は絶えず窓側に寄り、自分が氷の塊になってしまわないかと恐れていた。

この光景を見て、一橋貴明はさらに不機嫌になった。

彼は歯を食いしばって言った。「どうした、私の体にトゲでもあるのか？」

「プッ——」

前で運転していた大豆田北は、ついに我慢できずに笑い声を漏らした。

彼はどうして、高慢な一橋社長が嫉妬深い女のようになったと感じたのだろう？

しかし笑った後、彼は何か違和感を覚え、背筋が寒くなった。鋭い視線が彼を見つめていた！

「いえ、一橋社長、今外で面白い光景を見かけて、思わず笑ってしまったんです——」

大豆田北はどもりながら説明し、額に冷や汗が浮かんだ。

彼は一橋社長を笑うなんて、命知らずだ！

鈴木月瑠はこの二人の間の奇妙な空気の流れに全く気づかず、大豆田北の言葉に注意を逸らすことができたので、その話に乗った。「どんな面白い光景だったの？」

大豆田北は適当にでっち上げた。「さっき信号待ちの時、犬と猫を見かけたんです。三毛猫がおとなしく地面に横たわっていたのに、その犬がどうしても三毛猫に構いたがって、最後には二匹が喧嘩を始めたんです。ハハハ、もう笑えて仕方なかったです。」

彼の言葉が終わるや否や、車内の温度が一気に数度下がった。

大豆田北は自分の顔を平手打ちしたくなった。

これでは一橋社長を犬に例えているようなものではないか？