この指輪は、世界に一つしかないもので、一橋貴明はかつて展示会でそのモデルを見たことがあった。
まさか、二度目に見るのがこの女性の指にあるとは思わなかった。
鈴木家の全財産を集めても、こんな高価なものは買えないはずだ。だからこの指輪は、誰かに贈られたものに違いない。
どんな人が、女性に指輪を贈るのか?
もしかして……
彼女の息子の父親?
彼女と関係を持ち、子供までいる男!
鈴木月瑠は周囲の空気が不思議と数度も下がったように感じ、背中が冷たくなった。
彼女は手をしばらく上げていたが、男は何の反応も示さなかったので、仕方なく促した。「一橋社長、手を上げましたが、それで?」
「服を脱げ」
「!!!」
鈴木月瑠は目を丸くし、襟元をぎゅっと掴んだ。
「何をするつもりですか!!」
一橋貴明は冷たく立ち上がり、一歩一歩彼女に迫った。
鈴木月瑠は怖くなって慌てて後退し、オフィスの壁に背中をつけ、もう下がれなくなった。
「一橋社長、わ、私言いますよ、変なことしないで、触ったら、私、人を呼びますからね!!」
「少しの代償も払わずに私に助けを求めるのか、何故だ?」
一橋貴明の声は死ぬほど冷たく、まるで氷の穴から出てきたかのようで、息さえも冷たかった。
「私が言った代償は、そういう意味じゃないんです、誤解しないでください!」鈴木月瑠はごくりと唾を飲み込んだ。「一橋社長、まずはソファにお座りください。何でも、ゆっくり話しましょう」
「もし、私がそういう代償を求めたらどうする?」
一橋貴明は腕を広げ、彼女を壁と自分の間に閉じ込めた。
彼の吐く息は、氷のように冷たく、また火のように熱く、極めて矛盾した二つの感触が鈴木月瑠の顔に降りかかった。
彼女は恥ずかしさと怒りで目の前の男を睨み、顔を真っ赤にした。
「一橋貴明、あなたは女を連れて寝たいだけでしょ、あなたと寝たい人なんていくらでもいるわ!」彼女は尻尾を踏まれた猫のように大声で叫んだ。「今すぐ鈴木お嬢様に電話するわ。もし彼女が、あなたと一晩過ごすだけで鈴木家の危機が解決できるって知ったら、きっと喜んで飛んでくるわよ!」
そう言いながら、すぐにポケットから携帯を取り出した。
この行動は、まさに火に油を注ぐようなもので、一橋貴明の目に宿った暴風を完全に燃え上がらせ、炎は瞬く間に広がった。