「カシャッ!」
耳元に、突然写真を撮る音が聞こえ、フラッシュが光った。
そして、無数の人々が押し寄せてきた。
「なんてこと、希崎だわ!」
「うわぁ、まさか希崎が食事しているところに偶然出会えるなんて、幸せすぎる!」
「希崎と写真を撮らなきゃ、うぅ、こんな良いチャンス、逃せないわ!」
ファンの騒ぎで、レストランの客全員が驚かされた。
希崎は去年、全国配信されたドラマに出演し、国民的な知名度を誇っていた。男女老若問わず、この子を好きでない人はいないと言えるほどだった。
レストラン内のファンが写真をSNSに投稿すると、すぐにレストランの外にもファンが噂を聞きつけて集まり、隙間なく何重にも囲まれた。
鈴木月瑠は唖然とした。
これは彼女が初めてこれほど多くの人に囲まれて写真を撮られる経験だった。
彼女は一瞬固まったが、すぐに反応し、立ち上がって希崎を抱きかかえた。
「顔を守って、先に連れ出すわ!」
こんなオープンなレストランに来なければよかった。
鈴木月瑠は少し悔やんだが、今は後悔している場合ではなかった。彼女は希崎を守りながら必死に人ごみを突破しようとした。
希崎も怯えていた。
以前イベントに参加した時もこれほど多くのファンに囲まれたことはあったが、そのファンたちは組織的で規律があり、決してこれほど狂気的ではなかった。
彼は誰かが自分の腕を引っ張り、スマホを顔に押し付けて写真を撮っているのを感じた。
「離して!触らないで!」
希崎は怒って叫んだ。
しかしそのファンは喜びの悲鳴を上げた。「わぁあああ、希崎が私に話しかけてくれた、幸せすぎる!希崎、顔を上げて、お姉さんが写真撮ってあげるわ!」
そう言うと、さらに多くのファンが押し寄せてきた。
鈴木月瑠はファンに押されて、壁にぶつかりそうになった。
「鈴木お嬢さん、二少爺を連れて裏口から行ってください!」
俊が冷たい雰囲気で近づき、狂ったように押し寄せるファンを阻止した。
彼は若いながらも武術を学んでおり、長い棒を一振りすると、ファンたちはすぐに怯えて後退した。
鈴木月瑠は希崎を抱えて一気に裏口まで走った。
レストランのスタッフも怯えており、急いで裏口を開けて二人を逃がした。