第8章 彼の体を欲しがる
藤原涼介は、なぜ一夜にして高倉海鈴がこのように変わってしまったのか理解できなかった。彼は失望に満ちた声で言った。「田舎者はやっぱり分かっていない。彩芽たちが何をしようと、あなたは恩知らずな白眼狼だ。あなたのような人は、藤原家に嫁ぐ資格なんてない！」
彼は今、あの六十五パーセントの株式のために高倉海鈴と結婚することを承諾しなかったことを心から喜んでいた。
このような女を娶っても何の助けにもならないどころか、むしろ足手まといになるだけだ。
藤原家に嫁ぐ資格がない？
高倉海鈴は「あっ」と声を上げ、自分がすでに藤原家に嫁いでいることを思い出した。それも藤原家の当主である、藤原涼介の叔父に。
「ふさわしいかどうかは、あなたが決めることじゃないわ……」
高倉海鈴は意味深な笑みを浮かべた。藤原家で自分を見かけた時の藤原涼介の表情が楽しみだった。
そう言うと、彼女は藤原涼介にさらなる言い争いの機会を与えず、電話を切った。
……
翌朝早く、高倉海鈴は見慣れない天井を見つめながら目を覚まし、自分がすでに結婚していることを思い出した。
でも藤原徹はどこ？
昨夜は主寝室に戻ってこなかったの？
身支度を整えて階下に降りると、ちょうど二階のゲストルームのドアが開き、グレーのルームウェア姿の藤原徹が出てきた。
長身で長い脚、切れ長の目は細められ、慵懶で奔放な雰囲気を漂わせていた。
高倉海鈴は頭からつま先まで、藤原徹を隅々まで観察した。「ここで寝てたの？どうして？」
どうしてって、主寝室があなたに占領されていたからだ——藤原徹は無言で目を回した。
「恥ずかしいの？」
高倉海鈴は思いやりを持って諭した。「実は恥ずかしがることなんてないのよ。私たちはもう結婚証明書を持っているんだから、いつかは同じベッドで寝ることになるわ」
藤原徹は足を止めた。「僕と一緒に寝たいの？」
彼は高倉海鈴が自分の指を見つめる熱い視線を覚えていた。彼女が時々自分にキスしようとする軽薄な言葉も。だから総合的に見て、この女は自分の体を狙っているのか？
「実は一緒に寝なくてもいいの。でも時々あなたの指にキスさせてもらいたいわ」
藤原徹と同じベッドで寝ることを想像して、高倉海鈴は黙り込んだ。彼女は言葉を改めて、目標を藤原徹の指に定めた。
彼女の言葉に、藤原徹はますます確信した。この女は間違いなく自分の体を狙っている！
「もし私の記憶が正しければ、昨日あなたは私と離婚したいと言っていたはずだ。株式を私に譲渡した後で、私たちは離婚できる。それがあなたが当時言いたかったことだろう」
藤原徹は高倉海鈴より二つ頭分高く、両手をポケットに入れ、ゆっくりと高倉海鈴に迫っていき、大きな圧迫感を与えた。
民政局の前で高倉海鈴の偽装結婚の提案を受け入れたのは、一つは父親への対応のため、もう一つは高倉海鈴が本当に自分と結婚したいわけではないことを見抜いていたからだ。彼女はむしろ協力関係としての結婚、互いに利益のある関係を考えていた。
それは藤原徹の要求にぴったり合っていた。
しかし今、高倉海鈴の態度が変わった。彼女は大胆にも自分の体を狙っている。これは絶対に許せない！
藤原徹との付き合いの中で、ずっと高倉海鈴が主導権を握っていたが、今藤原徹が突然攻勢に出たことで、高倉海鈴は一瞬戸惑ったものの、すぐに態勢を立て直した。
「最初は確かにあなたと離婚するつもりだったことは認めるわ。でも後で予想外のことが起きて、離婚の件は後で話し合いましょう」
高倉海鈴は携帯を取り出し、昨日急いで作成した株式譲渡契約書を開いた。「補償として、高倉グループの株式を前倒しであなたに譲渡することができるわ」
少し間を置いて、さらに付け加えた。「それに加えて、三つの願いを叶えてあげることもできるわ。普段はこんな約束はしないんだけど」
藤原徹は「……僕があなたの三つの願いを必要とするとでも？」
彼の身分と地位で、どんなことが田舎から戻ってきたお嬢様である高倉海鈴に頼む必要があるというのか？農作業の手伝いでもしてもらうつもりか？
高倉海鈴は肩をすくめた。「何が起こるかわからないものよ」
藤原徹は薄い唇を上げ、もう一度彼女を打ち負かそうとした時、高倉海鈴の電話が鳴った。
「ちょっと待って、電話に出るわ」
高倉海鈴は一歩後ろに下がって藤原徹との距離を広げてから、携帯を取り出して応答した。
藤原徹は彼女のその小さな動作を見逃さず、思わず軽く笑った。
その笑い声が電話の向こう側の耳に届き、高倉のお父さんは激怒して叫んだ。「海鈴、どこにいる？！使用人が一晩中帰ってこなかったと言っているが、まさか男と浮気でもしているのか？恥を知れ！高倉家の面目を丸つぶれにしたな！」
高倉海鈴は携帯を少し遠ざけ、向こうの声が小さくなるのを待ってから、ゆっくりと注意を促した。「高倉家の面目は二十年前にすでに丸つぶれよ。あなたがつぶしたのよ。それに、昨日も言ったでしょう、私は結婚したの」
藤原徹は顔を上げて彼女を見つめ、その眼差しには測り知れないものが宿っていた。
高倉海鈴は藤原徹の微妙な表情を分析する余裕はなく、携帯に向かって話し続けた。「もしこんな無意味な話をするために電話してきたのなら、切るわよ」
高倉のお父さんは歯ぎしりしながら言った。「海鈴、結婚したからといって私の手から逃れられると思うな。今日の午後三時までに病院に来い。会って話をしよう！結婚相手も連れてこい！」