久保朱里は慌てて制止した。「もういいわ。海鈴が私のことをどう思おうと構いません。もう彼女を責める必要はありませんよ」
「久保さんだけがこんな仕打ちを我慢できるなんて、本当に優しすぎます!」
「高倉の長女のわがままのせいで、高倉海鈴を傷つけたくないばかりに、こんなに長い間結婚式も挙げられなかったなんて!」
久保朱里は周りの非難の声を聞きながら、内心で喜びに浸っていた。確かに海鈴と田中社長がベッドを共にする場面は直接見ていないものの、彼女にわがままで薄情な悪女というレッテルを貼ることには成功した。
この芝居は、無駄ではなかった。
彼女は苦笑いを浮かべながら言った。「みなさん、もう解散しましょう。パーティーに参加してください。私たち高倉家の私事で秋山社長の大事な用事を邪魔するわけにはいきません」
「久保さん」
その時、皆に非難されていた高倉海鈴がゆっくりと口を開いた。
彼女は冷たい眼差しで言った。「申し訳ありませんが、この件はそう簡単には終わりませんよ」
久保朱里は無邪気な表情で「海鈴、あなたはいったいどうしたいの?」
「みなさんの言う通り、確かに田中社長はこの部屋に来ていました」
高倉海鈴の言葉に皆が驚愕した。彼女はゆっくりと続けた。「田中社長が言うには、私の両親が私を彼に売り渡したそうです!」
高倉国生「!!」
一同は目を丸くした。これはどういうことだ?
つまり、田中社長の秘書は嘘をついていなかったということ?
高倉海鈴は続けた。「その後、藤原さまと谷口さん、そして秋山さんが駆けつけて私を救出してくれました。私はようやく魔の手から逃れることができました。お父さん、私を田中社長に売ったのはあなたですか?」
高倉国生は急に顔を上げ、周りの人々の嫌悪に満ちた視線が自分に向けられているのに気付いた。
「海鈴、田中社長の戯言を信じてはいけない。私はお前の実の父親だぞ。どうしてお前を彼に売り渡すことができようか?きっと彼の勝手な言い訳だ!」
「はぁ...そうですね」高倉海鈴は諦めたような表情を浮かべた。
「でも、なぜ田中社長は私がここにいることを知っていたのでしょう?しかも彼はルームキーを持っていました。一体誰が渡したのでしょうか?」