藤原徹には証拠など持っているはずがない。たとえ権力があったとしても、すでに削除された監視カメラの映像など見つけられるはずがない。
山田莉央は冷静さを取り戻し、涙に濡れた目で言った。
「徹、こんな状況になってもまだ認めないの?私が悪かったわ。私の教育が足りなかった。あなたは陸田さんを死に追いやったのに、陸田家は追及を諦めてくれた。今はただ、陸田進との争いをやめてほしいだけなのに、なぜ聞き入れないの?どうして...」
藤原徹は冷笑し、ゆっくりと立ち上がった。その威厳に満ちた姿は、人々を震え上がらせた。
彼は目を細め、陸田渚と山田莉央を軽蔑的に一瞥すると、口角を上げてうなずいた。「確かに、人証は証拠として認められないでしょう。」
「だから、私の証拠は人証ではありません。」
藤原徹はそう言うと、後ろに手を振った。
高野司がボディーガードの後ろから現れ、恭しく「社長」と呼びかけた。
陸田渚は高野司の手にUSBメモリがあるのを見て、心臓が激しく鼓動した。
藤原徹は口角を上げて言った。「陸田渚...山田莉央、この中身は何だと思う?」
山田莉央は一歩後ずさりした。「USBメモリなんて...徹、録音を偽造したの?私はあなたの実の母親よ。私があなたを害するはずがないでしょう。もう抵抗するのはやめなさい!」
陸田渚も急いで同調した。「そうよ、藤原徹!証拠を偽造しても無駄よ。あなたには権力があるから、そんなことは簡単にできるでしょう。」
高野司は周りの人々を無視し、USBメモリを持って宴会場の舞台裏へ向かった。
藤原徹は眉を上げた。「お二人とも間違いですね。録音ではありません。」
山田莉央の表情が和らいだ。「徹、謝罪さえすれば陸田家は許してくれるわ。私はずっとあなたの罪を背負ってきた。もう自分で責任を取るべきよ。陸田家は真相を知っているのに、隠し続けても意味がないでしょう?」
「今やあなたは長者番付のトップ。権力も地位もある。たとえ事実が明るみに出ても、誰もあなたを非難できないわ。あなたのキャリアには何の影響もないのよ。」
山田莉央は必死に説得し、偽りの涙を流した。
藤原俊介も口を開いた。「徹、もう大人なんだ。なぜお前の母親に罪を背負わせ続けるんだ?母さんが家に入って以来、ずっと不倫相手と呼ばれ続けてきた。もう名誉を回復させてやるべきだ。」