第631章 相続権争い

藤原徹は沈黙を保ったまましばらく経ち、冷静に言った。「全ての情報を封鎖しろ。何も起こらなかったことにする」

高野司は困惑した表情を浮かべたが、それ以上は尋ねず、藤原徹の指示通りに行動した。

……

翌朝、高倉海鈴が目を覚ますと、外から騒がしい声が聞こえてきた。

病院内では患者の安静のため騒ぐことは禁止されているのに、誰がこんな早朝から人の眠りを妨げているのだろう。

高倉海鈴は少々いらだたしげに起き上がり、隣の病室の藤原徹を見に行こうとした。病室を出るとすぐに、廊下に人だかりができており、高野司がその一団の応対をしているのが目に入った。

藤原徹が入院しているのはVIP病室で、病室の外には専用の応接室があり、その一団はちょうどそこに座りこんでいた。

高倉海鈴は入口に立ち、彼らを注意深く観察した。数組の夫婦で、子供も連れている。藤原徹のお見舞いに来たと言いながら、その目には少しの心配の色も見えなかった。

高倉海鈴が不思議に思ったのは、藤原徹が情報を封鎖するよう指示したはずなのに、なぜこの人たちは藤原徹が怪我をしたことを知っているのだろうか。

騒ぎ声はますます大きくなっていったが、幸い応接室の防音は良く、他の患者の迷惑にはならなかった。

「高野司、お前はただの小さな秘書に過ぎない。我々の家族の問題に口を出す資格などないだろう!藤原徹はもう意識不明で、後継者もいない。今急務なのは新しい後継者を選ぶことだ!」

「お前の忠誠心は分かるが、藤原家のことも考えてくれ。もし藤原徹がこのまま亡くなったら、藤原家は群雄割拠で大混乱になってしまうぞ!」

高倉海鈴は冷笑を漏らした。どうやらこの人たちは藤原徹が死んだと思い込んで、急いで後継者の座を争いに来たようだ。それを聞いて、彼女の心の中で怒りの炎が燃え上がった。

高野司も眉をひそめ、怒りの表情を浮かべながら言った。「社長は今もちゃんと生きているのに、なぜ次の後継者を選ぶ必要があるんですか?仮に後継者を変えるとしても、藤原家の傍系であるあなたがたに資格があるんですか?息子を奥様に養子に出そうとしても、あなたがたの子供に後継者になる資格があるとでも?」

高倉海鈴:「??」

なるほど、お見舞いに来て子供まで連れてきた理由が分かった。この子供たちを自分に養子として押し付けようとしているのだ。