「でも夏目城が突然地方へ転勤することになり、娘の一人を連れて行きたいと言い出したの。私は子供と離れたくなかったけど、当時6歳だった夏目彩美がどうしても一緒に行きたいと言い張って。秋と沙織は彩美と離れたくなくて、泣いて引き止めたのに、結局彼女は夏目城についていってしまったわ」
「その頃、私は末っ子を恋しくて頻繁に電話をしていたの。彼女は、お父さんが長く家を離れると家族と疎遠になってしまうから心配で、一緒についていったのだと言っていたわ。私はとても感動して、まだ6歳なのにとても思いやりのある子だと思ったの」
「夏目城は男だから、子供の面倒なんてろくに見られないでしょう。彩美が苦労するんじゃないかと心配で、半年ごとに一ヶ月ほど家に呼び戻していたの。姉妹の仲も本当に良くて、何でも話し合える関係だったわ。二人を引き離すのが忍びなくて、彩美に戻ってくるように提案したら、彼女も同意してくれたの」
ここまで話して、西村奥様は一旦言葉を切った。
「その時、彩美はまだ向こうに荷物があるから一度戻ると言って、一週間以内に必ず帰ってくると約束したの。でも一週間経っても彩美は戻ってこなかった。秋と沙織が心配して迎えに行ったら、彩美は帰ろうとせず、むしろ秋に暴言を吐いて追い返してしまったの」
「あんなに素直だった娘がそんな風に変わってしまうなんて信じられなくて、夏目城が何か言ったのかと思って、彩美を見張らせたの。そしたら...」
西村奥様は感情を抑えようとしていたが、高倉海鈴にはその声が詰まっているのが分かった。
しばらくの沈黙の後、西村奥様は悲痛な声で続けた。「夏目城はとっくに不倫していて、彩美はその愛人と一緒に暮らしていたの。その女性をママと呼んで、まるで三人家族みたいになっていたわ」
「私はそのことを知って夏目城と離婚を申し出たの。子供たちは分かってくれると思っていたけど、彩美は...」
——「ママ、女性として寛容になるべきよ。パパがしたことは、どの男性でもしそうな過ちだわ。それに、こんなに長く離れて暮らしているんだから、誰かそばにいて世話をする人が必要なのは当然でしょう。パパを責められないわ」
——「パパが佐藤おばさんを好きなのは当然よ。私も佐藤おばさんが好き。若くて綺麗で優しくて、私のことも本当によく面倒を見てくれる。一緒に暮らすのが幸せだわ」