第689章 伊藤仁美なんて聞いたことがない

その表情が冷淡な店主は、鈴木家の方が来たと知った時、目に驚きを隠せなかった。先ほどまでは渡辺泉が口先だけだと思っていたが、まさか本当に鈴木家の方を呼べるとは信じていなかった。

広島の鈴木家は長年隠居して世事に関わっていなかった。たとえ渡辺泉が鈴木家と知り合いだとしても、相当親密な関係でなければ、わざわざ広島から来てくれるはずがない。

「渡辺さんが呼んだ鈴木家の方なのですか?」

「もちろんです。ここにいる人の中で、そんな力があるのは渡辺さんと伊藤さんだけです。伊藤さんが先ほど言ったように、伊藤家と鈴木家は親しい間柄ですから、当然二人の面子を立てて来られたのでしょう。」

伊藤仁美の学者らしい顔に喜びが満ちあふれ、声を震わせながら言った。「本当に鈴木家が来られたのですか?」