第687章 渡辺さんが来た

「透かし彫りの玉環花瓶を見たのは彼女だけじゃないわ。私も見たことがあるの」高倉海鈴は淡々と言った。

「見たことがあるの？」藤原明は驚いた顔をして、声を潜めて尋ねた。「どこで見たの？その陶芸の名人を知ってるの？」

藤原徹は深い眼差しで彼女を見つめた。なぜ最初、彼女をか弱くて誰にでも虐げられる女性だと思っていたのだろう？

その時、伊藤仁美が優しく口を開いた。「もしよろしければ、まず鈴木家の後継者をお呼びしてみましょうか。ただ、完璧な透かし彫りの玉環磁器瓶が作れるかどうかは保証できません。どうしてもダメな場合は、鈴木家のあの方にお願いしてみましょう」

いつも冷静な店主は突然目を輝かせ、喜びの声を上げた。「本当に鈴木家の方を呼べるんですか？」

伊藤仁美は微笑んで答えた。「伊藤家と鈴木家は陶芸四大家の一つとして、常に交流がありますから。鈴木家は隠居されていますが、父と渡辺さんならまだ連絡が取れます」