第757章 紙は火を包めない

会場は水を打ったように静まり返り、皆が驚愕の表情で高倉海鈴を見つめていた。高倉海鈴が斎藤雅也先生の誘いを断るなんて?光栄に思うべきではないのか?なぜ彼女の目には嫌悪感が満ちているのだろう。

高倉海鈴は冷ややかな表情で、無関心そうに言った。「なぜ私が承諾するのですか?」

「お前!」斎藤雅也は怒りで顔を真っ赤にし、震える指で高倉海鈴を指さした。

彼の経歴と実績からすれば、多くの人が弟子入りを懇願しても断ってきたのに、今回は高倉海鈴を弟子にしようと、師匠拝見の宴を開くことを約束し、さらには独立したアトリエまで与えて創作に専念させようとしたのだ。これほど丁寧に弟子を扱ったことはなかったのに、彼女は拒否するというのか?

確かに高倉海鈴の創作の才能に目をつけたことは認める。しかし、バックグラウンドのない画家である高倉海鈴が頭角を現すまでには何年もかかるだろう。今、彼の弟子になれば、多くの苦労を省き、一躍有名になって皆に羨まれる存在になれるというのに、彼女はこうも分別がないのか。

高倉海鈴は軽蔑の眼差しを向けて言った。「斎藤さん、はっきり申し上げましたが、私はあなたの弟子にはなりません。他に用がないのでしたら、私は失礼します。」

彼女が立ち去ろうとした時、突然足を止め、『ローズガーデン』の絵に目を向けた。「この絵は私と主人が一緒に描いたものです。私の絵なので、持ち帰ってもよろしいですよね。」

そう言うと、斎藤雅也の返事を待たずに、その絵を手に取った。

斎藤雅也は顔を曇らせ、「高倉さん、もう一度チャンスを差し上げましょう。よく考えてください。油絵界で私を敵に回して、あなたにまだ前に進む可能性があると思いますか?」

高倉海鈴は顔を上げ、馬鹿を見るような目つきで彼を一瞥した。「もともと続けるつもりもありませんよ。油絵は私にとって趣味に過ぎません。仕事にするつもりもないし、将来のことも気にしていません。」

斎藤雅也は気を失いそうになるほど怒った。

しかし考え直してみると、高倉海鈴は画家になる気もなく、将来も気にしていない。そんな人物こそ、代筆者として最適ではないか。彼が高倉海鈴にお金を払い、高倉海鈴が彼のために絵を描く。お互いの利益になるではないか。