高倉海鈴は一瞬固まり、声を震わせながら言った。「私は行きません。あなたは何しに行くの?いつもこういう場所は好きじゃないはずでしょう?」
空気が数秒間静まり返った後、藤原徹は軽く笑って言った。「ネックレスを買いに行かなければどうするんだ?心配するな、すぐに戻ってくるから」
彼女はネックレスなど要らなかった。ただ藤原徹に正体がばれることを恐れていた。でも変装しているから、きっと気づかれないはず。ただ彼を避けられれば大丈夫。
そう考えると、高倉海鈴の胸のつかえが少し下りた。
藤原徹は腕時計を見て、時間が迫っていることを確認すると、立ち上がって命じた。「高野広、奥様の薬を買ってきて、家で彼女の面倒を見ていろ」
面倒を見る?高倉海鈴には、藤原徹が高野広に自分を監視させているように思えた。でも大丈夫、高野広の頭脳では彼女を見張れるはずがない。ドアに鍵をかけて寝室で休んでいるふりをすればいい。
藤原徹が出て行くと、高野広はすぐに薬を買って寝室に持ってきた。
高倉海鈴はテーブルの上の山のような薬を見て、任務が終わったら必ず渡辺祐介をぶん殴ってやろうと決意した!
……
午後6時40分、藤原徹がパーティー会場の入り口に姿を現した。各界の有力者や富豪たち、そして各テレビ局の記者たちも集まっていた。
この時、伊藤仁美はすでにオートクチュールのドレスを着て会場に入っていた。彼女はカメラに向かって微笑み、伊藤と伊藤の奥様は傍らで取材に応じ、東京に支社を開設する計画を発表していた。
記者たちは伊藤家の発展状況について質問した後、一斉に伊藤仁美の周りに集まった。「伊藤さん、これまで京都で会社を経営されていましたが、突然東京に来られたのは、伊藤家の支社を引き継ぐためですか?」
伊藤仁美は笑顔で答えた。「東京に来たのは自分の実力を高めるためです。私はまだ若く、学ぶべきことがたくさんあります。会社を引き継ぐかどうかはまだ決まっていません」
「伊藤さんはどなたかの指導を受けているのでしょうか?」
伊藤仁美は恥ずかしそうに笑って答えた。「はい、その通りです。ですが、その方のお名前は控えさせていただきます」
人々は伊藤仁美の恥じらう様子を見て、最近東京で噂されている伊藤家と藤原財閥の提携の話を思い出し、彼女の言う「その方」が誰なのか察していた。