藤原財閥本社。
黒いロールスロイスが玄関前に停車し、運転手は急いで車から降りてドアを開けた。「社長、到着しました。」
藤原徹は頷き、高倉海鈴の手を取って車から降りた。周囲の熱い視線を浴びて、海鈴は少し落ち着かない様子で「徹、契約書にサインするだけなのに、こんな大げさにする必要はないでしょう?」と言った。
入口に入るとすぐに、特別な装飾が施された周囲が目に入り、皆が二人に向かって深々と頭を下げた。藤原徹は彼女の手を引いてエレベーターへと直進した。周囲の人々は好奇心と畏れの入り混じった様子で、チラチラと二人を盗み見るだけだった。
「あれが藤原奥様ですね!」
「藤原奥様は本当にお綺麗ですね。社長があんなに溺愛するのも納得です!」
「聞きましたか?昨日、藤原奥様がヘブンリー・エンターテインメントに行った時、二人の女性に止められて、藤原奥様は美貌だけで、藤原社長に相応しくないし、会社を経営する能力もないって言われたそうです。」
二人が上階に着くと、すぐに契約書と書類が届けられた。海鈴はサインを済ませた後、深く息を吸って言った。「実は嵐エンタメを立ち上げたのは母なの。嵐エンターテインメントという名前も母が付けたの。母のノートに書かれていたのを見つけたの。そのノートは母の遺品を整理している時に見つけたもので、後に久保菫に燃やされそうになったけど、なんとか半分は救い出せて、形見として残せたわ。」
海鈴の言葉を聞いて、藤原徹は眉をひそめた。その久保菫という女は本当に悪事を重ねていた。刑務所で余生を過ごすのも軽すぎる罰だ。
「母が亡くなった時、このエンターテインメント会社はまだ正式に設立されていなかったけど、すでに形は整っていて、木村さんに任せていたの。木村さん親子はこの会社のために心血を注いできた。彼らがいなければ、今日の嵐エンターテインメントはなかったわ。だから私は会社の資金と権限を木村さんに譲渡したの。ただ残念なのは、母が嵐エンターテインメントの今の盛況を見ることができなかったことね。」
「木村さんは母が残した創業資金と、自分のこれまでの貯金を使って、嵐エンターテインメントを苦労して運営してきた。当時は所属タレントが一人しかいなくて、リソースも全くなかった。六年前に兄の助けを借りて、やっと芸能界で頭角を現すことができたの。」