沢田夢子が雨宮由衣の言っていないことを否定しようとした時、雨宮由衣は何気なく江川麗子の方を一瞥し、思いやりのある表情で沢田夢子に言い添えた。「先月末のことよ。あなた、蘇我隼樹と遊園地に行ったでしょう?きっとそっちがうるさすぎて、私の話がよく聞こえなかったのね?」
沢田夢子はその言葉を聞いた瞬間、顔色が真っ青になり、慌てて江川麗子の方を見た。
しまった!確かに先月、蘇我隼樹と遊園地に行ったんだ。その時、雨宮由衣が何かの用事で電話をかけてきたけど、隼樹の優しい気遣いを楽しんでいた彼女には構っている暇がなく、適当に言い訳して切ってしまった。
でも、雨宮由衣がどうしてそれを知っているの?もしかして、自分がうっかり口を滑らせたとか?
最悪、この馬鹿が江川麗子の前でこんなことを言い出すなんて!
案の定、江川麗子の表情が一変した。「何ですって!先月末に、沢田夢子が蘇我隼樹と遊園地に?」
北条琴美も呆然としていた。「あの日は麗子の誕生日で、麗子が特別に蘇我隼樹を誘って、告白するつもりだったのに。結局、隼樹は来なくて、あなたも体調が悪いって来なかったじゃない。なのに...なのにどうして蘇我隼樹と一緒にいたの...」
これを聞いた周りの女子たちも唖然とした。江川麗子が蘇我隼樹のことを好きだったの?
このことを知っている人は多くなかったが、沢田夢子は江川麗子のルームメイトで、こんなに仲が良かったのだから、知らないはずがない。
沢田夢子は江川麗子が蘇我隼樹のことを好きだと知っていて、誕生日に告白する予定だと知っていながら、体調不良を装って、こっそり蘇我隼樹とデートに行ったの?
周りの人々の沢田夢子を見る目が一変した。
親友の背後で、その親友の好きな人と付き合うなんて、あまりにも卑劣すぎる...
雨宮由衣は北条琴美の言葉を聞いて、急に何か言い間違えたかのような慌てた表情を見せ、目を泳がせながら言った。「私、何か間違ったこと言っちゃった?」
雨宮由衣のこの言葉は、かえって事の信憑性を高めることになった。
誰もが知っている通り、沢田夢子と雨宮由衣は仲が良かったから、江川麗子が先ほどの噂を信じたのと同様、雨宮由衣が無意識に漏らした話も信じるのは当然だった。
それに、江川麗子は馬鹿じゃない。おそらく日頃から何か気付いていたのだろう。ただ確信が持てなかっただけで。