一時間後、タクシーは錦園の近くで停まった。
到着してから雨宮由衣は悲しいことに気づいた。庄司輝弥に持っていくはずの肉まんを、知らぬ間に自分で四個も食べてしまっていたのだ!
錦園に着いた時には一個しか残っていなかった。それも誘惑に耐えて残しておいたものだった。
急いで行かなければ!最後の一個は絶対に守らないと!
サプライズにするため、雨宮由衣は誰にも帰ってきたことを告げず、こっそりと裏門の小さな庭園から忍び込んだ。
近づいてきた時になって、雨宮由衣はようやく気づいた。もし庄司輝弥が今日錦園にいなかったらどうしよう?
雨宮由衣はそう考えながら、中庭を通り抜けて中へ向かった。リビングは小さな明かりだけがついているようで、少し暗かったが、灯りがついているということは誰かがいるはずだ。
そこで、雨宮由衣は足を速めてリビングの方へ向かった。そして、大きなガラス戸の横まで来て、中に入ろうとした瞬間、瞳孔が急激に縮み、足を止めた。
血の匂い……
空気中に……血の生臭い匂いが……
しかも、その匂いはどんどん濃くなっていく!吐き気を催すほどの濃さに!
全てリビングから漏れ出てくるものだった。
どうなっているの?
ガラス戸には厚いカーテンが引かれていて、この時点ではリビングで何が起きているのか見えなかった。
「あぁっ——」
雨宮由衣が極度の緊張状態にある時、リビングから突然心を引き裂くような叫び声が聞こえた。
「あぁっ——殺してくれ!庄司輝弥!私を殺してくれ!」
深夜の中、その悲痛な声は背筋が凍るほどだった。
雨宮由衣はその場に立ち尽くし、動くことができなかった。
彼女は慎重にガラス戸の隙間からリビングの中を覗き込んだ。この角度からは、床一面に蛇行する血痕が純白のカーペットに染み込んでいくのが見えた……
血の跡をさらに追うと、庄司輝弥がソファに座っているのが見えた。控えめな高級仕立ての濃色のスーツを着て、手首の時計は無機質な冷たい光を放っていた。そして彼の足元には、なんと真っ白な白虎が横たわっていた。
白虎は物憂げに目を細めて休んでいるように見えたが、猛獣としての殺戮の気配は完全には隠せず、いつでも獲物を引き裂けるような様子だった。
庄司輝弥の右側には井上和馬が、左側には黒服の青年がいた。