楊七七の足の怪我は止血したものの、まだ体力が回復しておらず、顔色は依然として青白く、足を引きずって歩いていた。
そんな状態でも、彼女は部屋に留まることを拒んだ。
林逸を殺せないのなら、立ち去るしかない。次の機会にまた戻ってきて殺せばいい!
これが殺し屋の掟だ。
勝てない相手と正面から戦うのは殺し屋ではなく、決死隊だ。
足を引きずりながら一階に降りた楊七七は、フロントに向かって尋ねた。「おかみさん、さっき209号室に私を連れてきた男性の名前は何ですか?」
楊七七は以前林逸に名前を聞かなかった。聞いても答えないだろうと分かっていたからだ。
林逸は彼女を通りすがりの人としか見ておらず、自分は彼を殺そうとしていたのだから、林逸が余計な面倒を招くはずがなかった。
しかし、楊七七も馬鹿ではなかった。ホテルに泊まるには登録が必要で、当時自分は意識を失っており、身分証明書も持っていなかったため、登録したのは間違いなく林逸だと分かっていた。
「あら?」
おかみさんは一瞬驚いたが、楊七七の服装を見て、すぐに思い出した。彼女は先ほど慌てて部屋を取った男性が背負ってきた女性だった。
まさか?
知らない同士なのにそんなことに?
しかもホテルまで?
でも彼女は背負われて来ていたし、酔っ払っていたのかもしれない?
そう考えれば、十分あり得る話だ。
最近の若い者たちときたら!
おかみさんは世の中の風紀の乱れを嘆いたが、こういった若者たちがいなければ、自分のホテルの商売がこれほど繁盛するはずがないとは考えもしなかった。
「林逸という名前です。」
おかみさんは宿帳を確認して楊七七に答えた。
「ありがとうございます。」
楊七七は頷きながら、その名前を記憶に刻んだ。
林逸か。
本名か偽名かは分からないが、とにかくこの名前は、楊七七の憎しみの対象となった。
「どういたしまして。」
おかみさんにとっては、ちょっとした手間で済む話だった。
楊七七は林逸の名前を覚えると、ホテルの出口へと向かった。
楊七七が足を引きずりながら出て行くのを見て、おかみさんは舌打ちした!
まさか?
そんなに激しかったの?
歩けないほど?
さっきの男性はそんなに強そうには見えなかったのに、こんなに凄いなんて?
もしかしてこの子、初めてだったのかしら?