林逸が突然そんなことを言い出したので、唐韻は少し戸惑ってしまった。林逸が露店を出していた?
さっき見かけた時、スポーツカーで来ていたはずなのに?
どうして露店なんかを出すの?
それに、今は自分と同じ高校生で、在学中の学生なのに、どうして結婚できるの?
妻が妊娠してるって?
唐韻は目をこすった。この二日間疲れすぎて、それにこの林逸があまりにも腹立たしいから、幻覚を見てしまったのかしら?
そうでなければ、どうしてこんな場所で林逸に会えるはずがない?
でも、どう考えても、さっきの人が林逸かどうかに関わらず、唐韻はその人が腹立たしく思えた!
自分が先に目をつけたワンピースなのに、値段の交渉も終わらないうちに、先に買われてしまうなんて、本当に許せない!
唐韻は悔しそうに俯きながら、屋台通りの方向へ歩いていった。やっと決心して新しい服を買いに来たのに…
「きゃっ!」
唐韻は数歩歩いたところで、前の人にぶつかりそうになって、驚いて後ろに飛び退いた。
顔を上げると、林逸がにこにこしながら目の前に立っていた。「あなた...なんでここに立ってるの?人を驚かせるつもり?」
「ワンピースを渡しに来たんだよ!」
林逸はそのワンピースを唐韻の前に差し出した。
「奥さんのために買ったんじゃないの?」
唐韻は眉をひそめ、林逸の意図が分からなかった。
「はは、あれは値切るための手段さ。俺に妻なんかいないよ。ただ仕入れ値を聞き出すためだけさ」
林逸は肩をすくめた。「君が値切り方を知らないから、ぼったくられそうで心配になってね」
「あぁ...」
唐韻はやっと林逸が先ほどなぜあんなことを言ったのか理解した。ただ値切るためだったなんて!
じゃあ、このワンピースを買った理由は、自分にプレゼントするつもりだったの?
そう考えると、唐韻の心はますます煩わしくなってきた。
彼女は当然、林逸からのプレゼントなど受け取るつもりはなかった。欲しいと言えば、学校では多くの男子が競って贈ってくるだろうが、彼女はそういうのが嫌いだった。
「はい、受け取って」
林逸はワンピースを唐韻に押しつけた。
「あなたの物なんて要りません。返してください」
唐韻は身をかわし、冷たく言った。
「誰がプレゼントするって言ったの?お金ちょうだい」