周りの人々が空を見上げていたため、葉錯が6、7階まで登っていることに気づいたのは後になってからだった。
瞬間的に群衆から驚きの声が上がった。「あああああ、あの人...」
一瞬のうちに、多くのスマートフォンが葉錯に向けられたが、皆は驚いたことに、この壁を登る人物が布で顔を覆っていることに気づいた。
葉錯が登っている壁は顏菲雨が立っている側ではなかったため、屋上に立ち続けている顏菲雨は下で何が起きているのか気づいていなかった。実際、葉錯が彼女の足元から登ってきたとしても、生気のない彼女の目は、この世界の誰にも向けられることはなかったかもしれない。
元々顏菲雨を心配していた群衆の注目は、一瞬にして葉錯に移った。皆はほとんど息をするのも忘れ、葉錯が一歩一歩上へと登っていくのを見つめていた。
階数が高く、葉錯の体も巔峰の状態まで完全に回復していなかったため、10階ほどの高さまで来たとき、突然手が滑った。
「おおおおお!!!」
下の群衆から驚きの声が上がり、葉錯が半メートルほど落下した後、空中で壁の突起をつかんだのを見て、やっと安堵のため息をついた。
緊張のあまり、多くの女性たちは足の力が抜け、地面に座り込んで、顔を覆いながら小さく泣いていた。
空中にいた葉錯は、心臓が激しく鼓動するのを感じながら、思わず呟いた。「くそ、手抜き工事め。」
空中で深く息を吸い、葉錯は再び上へと登り始めた。
下にいる観衆全員が、自分の胸に手を当て、激しく鼓動する心臓を落ち着かせようとしているかのようだった。
頑張れ!
多くの人々の心にそんな思いが浮かんだ。
一方、下の警察は大混乱に陥っていた。
「この若者は誰だ、何をしているんだ?」到着したばかりの吳隊長が風千羽に怒鳴った。
「分かりません、おそらく顏菲雨のファンでしょう?」一人の警官が頭を下げながら答えた。彼らも葉錯が登り始めたときには気づかず、今では葉錯があまりにも高く登ってしまい、誰も彼を下ろすことができない。警察官たちも20、30階もの高さまで登る勇気はなかった。