「もういい!この件は賀彬のやつが引き起こしたものだし、南枝も関わっているからな。今ここでそいつを殺せば、彼女の機嫌を損ねることになるだろう。どうせ取るに足らない小物だ。命だけは助けてやろう」
洪鎮亭の目には、蘇乘羽など取るに足らない存在だった。以前、許南枝と蘇乘羽に何らかの関係があったからこそ、このような小物に洪鎮亭が注目する価値すらなかったのだ。
殺すも殺さないも、たいした問題ではなかった。
それに許南枝も、蘇乘羽の祖父に恩があると言っていた。洪鎮亭は許南枝のことをよく知っていた。表面は冷たそうに見えても、骨の髄まで義理堅い性格なのだ。
小物一人のために彼女を怒らせる必要はない。
蘇乘羽は知らなかったが、また一度、鬼門関の前を歩いていたのだ。
今の彼の実力では、もし洪鎮亭が彼を抹殺しようと思えば、まったく抵抗する術もなかっただろう。