第055章：林社長！お越しになりましたか！
「これは……」
夏心雨は一時的に言葉に詰まり、この件をどう説明すればいいのか分からなかった。
二人とも金持ちの子供だが、金持ちの子供にもランクがある。
秦様は中海のトップクラスの御曹司で、彼と肩を並べられる人は中海でもごくわずかだった。
たとえ逸さんが2000万以上の車に乗っていても、秦様の相手にはならないだろう。
「逸さん、落ち着いて」夏心雨は林逸の手を引いて、「こんな些細なことで彼女たちと争う必要はないわ。私たち、行きましょう」
「これはあなたたちとはあまり関係ない。ただ、秦様の面子がどれほどのものか見てみたいだけだ」
「ふん……」
任紫萱は冷ややかに鼻を鳴らした。「本当に林の中には何でもいる鳥がいるものね。秦様が刀を振れなくなったの？それともあなたたち小金持ちが調子に乗ってるの？ポケットに小銭が入ってるからって、秦様を見下すようになったの？」
「それなら彼に聞いてみればいい。彼が調子に乗ってるのか、私が調子に乗ってるのか」
林逸は振り返って、「二人とも、私について来い」
夏心雨と孫瑞は目を合わせた。
「心雨、あなたの友達は本当に私たち二人を中に入れる力があるの？」
「私も、よく分からないけど、でも逸さんは普通の人じゃないわ」
「じゃあ、どうする？入る？」孫瑞はどうすればいいか分からなかった。
任紫萱の後ろには秦様が付いていて、自分では手が出せない。
もし本当に入ったら、きっと秦様の機嫌を損ねることになり、これからライブ配信業界で生きていくのが難しくなるだろう。
「行きましょう！」
夏心雨は深く息を吸って、「逸さんがそう言うなら、たとえ前が刀の山、火の海でも、私は彼と一緒に行く！」
「本当に大丈夫？」
「私も分からないけど、逸さんが言うなら、私は信じる！」
「分かった、私も一度彼を信じてみる！」
二人が林逸について中に入っていくのを見て、任紫萱は意地悪く言った：
「警告しなかったとは言わせないわよ。後で追い出されて恥をかくことになるわよ」
「萱さん、そんなルーザーたちと話してる暇なんてないわ。私たちも入りましょう。彼らが追い出される時の様子を撮影して、配信視聴者に見せましょう。そんな場面なら、きっとバズるわ」
「そうね、行きましょう」
レース場の中に入ると、二つのグループは別々の方向に分かれた。
「すごい、レース場がめちゃくちゃかっこいい」中に入って、夏心雨は驚きを隠せなかった。
「ここは世界最高のレース場の一つよ。少なくともトップ3には入るわ。もしチャンスがあって、ここでレースを一度見られたら、死んでも悔いはないわ」孫瑞は感動して言った。
「じゃあ、今日の配信の視聴者数は絶対爆発的に増えるわね。唯一残念なのは、ここで誰もレースをしていないこと。もしあれば、もっと効果的だったのに」
「私たちが入れただけでも十分よ。それだけで満足しなさい」孫瑞は言った：
「早く配信機材を準備しましょう。時間を無駄にしないで」
夏心雨はまだ少し緊張していた。「逸さん、本当に大丈夫？」
「心配するな。あなたたちの予定通りに進めればいい。私がここにいる限り、誰もあなたたちを追い出すことはできない」
「ありがとう、逸さん」
林逸はスタンドで場所を見つけて座り、周海濤に電話をかけようとした。
任紫萱のような輩は、周海濤に処理させればいい。
しかし、携帯を取り出した瞬間、遠くから人々が自分の方に向かってくるのが見えた。
二十人ほどで、知った顔も多かった。
任紫萱の他に、秦漢と周海濤もその中にいて、何かを話し合っているようだった。
秦漢と周海濤が来るのを見て、林逸は笑って携帯を収めた。
人が来たなら、電話をかける必要はない。
「心雨、見て！秦様と任雨萱たちが来たわ！」孫瑞は緊張して言った。
配信機材を準備していた夏心雨は、遠くを見た。
確かに、大勢の人が自分たちの方に向かってきていた。
「逸さん、逸さん……」
夏心雨は急いでスタンドに走った。「秦様と任紫萱たちが来たわ。どうすればいいの？」
「来ればいいさ。慌てることはない。自分たちのことを続ければいい」
「でも秦様はここの幹部と仲が良いみたいで、彼らは……」
「秦漢が来ても無駄だ。何も気にすることはない。自分のすべきことをやればいい」林逸は言った。
「は、はい……」
そう言いながらも、夏心雨はとても緊張していて、不安で配信機材の準備に集中できなかった。
その時、任紫萱と秦漢たちが、林逸の方に向かってきていた。
「秦様、周部長、今日は私の独占配信だと約束したのに、あの二人が無理やり入ってきたんです。早く何とかしてください」
秦漢は顔を上げ、遠くにいる夏心雨と孫瑞を見た。
「あの二人が、もう二人の配信者か」秦漢は言った。
「はい、そうです」
「今日のイベントが独占配信になったと、彼らに伝えなかったのか」
「伝えましたよ。でも夏心雨が連れてきた人が、彼女たちを強引に中に入れたんです。しかも横柄で、全く言うことを聞かないんです」任紫萱は言った：
「あなたの面子がどれほどのものか知りたいとか、独占配信の資格があるのかとか言ってました」
秦漢は笑った。「面白いな。中海全体で、私秦漢の面子を無視する奴なんて、めったにいないぞ」
「秦様、お怒りにならないでください。この件は私が処理しましょう」周海濤は笑って言った：
「あなたが無駄な言葉を費やす必要はありません」
「お前がここの管理者だから、発言権は確かに私より大きい。だが向こうが私の面子を潰そうとしているんだ。この件は簡単には済まさない。誰がそんな大胆なことをしたのか、見に行かなければな」
「私もそう思います。最近の若い金持ちは、誰が上で誰が下か、しっかり見せつけてやる必要がありますね。ポケットに小銭が入っただけで、どう威張ればいいか分からなくなってるみたいですから」
秦漢は大きな手で任紫萱の腰に手を回し、孫瑞と夏心雨の方に歩いていった。
「お前たち二人、誰に許可をもらって入ってきた？」秦漢は低い声で言った。「今日は独占配信だと伝えただろう」
冷たい表情の秦漢を見て、孫瑞は震えが止まらなかった。
秦漢のような御曹司は、自分には手が出せない相手だった。
夏心雨も少し怖かった。
秦漢の名前は以前から聞いていたが、これが初めての対面だった。
まさか、この人のオーラがこんなに強いとは。
本当に怖い。
「大声を出して何だ。私が彼女たちを連れてきたんだ」
スタンドから声が聞こえ、秦漢たちは顔を上げた。
ちょうど林逸が見えた。
「秦様、この人です！」
任紫萱は林逸を指さして言った。「さっきは傲慢で、全くあなたを眼中に入れていませんでした」
「そうですよ。イケメンだからって、あちこちで威張り散らして、自分の分際も分かってないんです」任紫萱のアシスタントが言った。
夏心雨と孫瑞は心臓が飛び出しそうだった。
逸さんが中海のトップクラスの御曹司と対立してしまった。
これからどうなるの？
「林社長！いらっしゃいましたか！」