第178話：場面が一時とても気まずい（5更新で購読をお願い）
「彼の家に？」
岳嬌は兄の意図がよく分からなかった。
「そうだ、まずは彼の家がどんなものか見てみよう」と岳海は言った：
「もし彼が数百平米のマンションや豪邸に住んでいるなら、金持ちであることは間違いない。張松は彼の親友だから、将来必ず助けてくれるはずだ。発展は間違いないから、しっかりと掴んでおけ、逃がすなよ！」
岳海の言葉に、岳嬌の目が輝いた。
「お兄ちゃん、その通りね。今度見に行きましょう」
「でも問題がある。どうやって彼の家に行けばいいの？」
「それは大した問題じゃない。私に任せて」
元々眠そうだった岳嬌は、岳海の提案を聞いて急に元気になった。
目を輝かせ、二人の酒宴が早く終わることを期待した。
さらに20分が過ぎ、床には十数本の酒瓶が並んでいた。
林逸は張松が十分酔っているのを見て、それ以上飲むのを控えた。
どうせ中海に数日滞在するのだから、飲む機会はまだまだある。
「兄貴、今日はごちそうさまでした。これからホテルに戻ります。お早めにお休みください」
「ホテルなんかに戻って何するんだ。中海まで来たんだから、今夜は俺の家に泊まれよ」
「いいんです。中海には出張で来てるので、会社が経費で落としてくれますから」と張松は笑顔で言った。
「張松、あなた酔ってるんじゃない？」と岳嬌が言った。
「酔ってないよ、ちょうどいい感じだ」
「私が言いたいのは、今夜は林さんの家に泊まって、後で領収書を用意して経費申請すれば、ホテル代が全部浮くってことよ」
「それは申し訳ないです。兄貴には彼女もいるし、邪魔するのは」
張松の認識はまだ以前のままで、林逸と柳思思が別れたことを知らなかった。
「彼女なんてもういないよ、昔の話さ。もう別れたんだ」と林逸は笑って言った：
「遠慮なく泊まりに来いよ。後で何か食べ物を届けさせるから、二次会もやろう」
「兄貴、そこまでしていただいて申し訳ないです」
「本当に酔ってるな、俺に遠慮なんかするなよ」
張松はニヤニヤ笑って、「じゃあ遠慮なく甘えさせてもらいます」
林逸は笑いながら携帯を取り出し、代行運転を呼んだ。
すぐに、代行運転手が折りたたみバイクで林逸の前に現れた。
「お客様、林逸様でしょうか？」
林逸は頷き、車のキーを代行運転手に渡した。
「九州閣まで」
唖然とした！
張松以外の岳家兄妹と代行運転手は、九州閣という言葉を聞いて頭が鳴った。
それは中海一の高級住宅で、最も安い部屋でも10億円近くする。
誰も林逸がそんな場所に住んでいるとは想像もしていなかった。
本当に凄い。
岳海は岳嬌の腕を引っ張り、興奮して言った：
「嬌嬌、彼は九州閣に住んでる。金持ちなのは間違いない。何としても中に入り込む方法を考えないと」
「安心して、私に任せて」と岳嬌は言った。
震える手でキーを受け取った運転手は、少し緊張していた。
代行運転を始めて1年以上になるが、こんな高級車を運転するのは初めてだった。
張松の状態があまり良くないのを見て、林逸は彼を車に乗せた。
来た時と同じように、岳海は厚かましく助手席に座り、張松と岳嬌は後部座席に座った。
林逸は車の外に立ち、岳家兄妹を馬鹿を見るような目で見て言った：
「私の車は4人乗りだ。君たちが全部座ってしまったら、車の持ち主の私はどこに座ればいいんだ？」
林逸にそう言われて、岳家兄妹はようやく気付いた。
このベントレー・シャルムは5人乗りではなく、後部座席の真ん中にアームレストがあって一人分のスペースを取っているため、4人しか乗れない。
今は車内が満席で、確かに彼の座る場所がなかった。
「これは...」
岳海は気まずそうに周りを見回した。
代行運転手は当然降りられないし、張松は林逸の親友だから、彼も降りるわけにはいかない。
そして自分の妹は張松の彼女だから、彼女を降ろすのも難しい。
どうやら車内で余計なのは自分一人のようだ。
「こんな事になって、本当に申し訳ない」岳海は気まずく笑いながら、ドアを開けてしょんぼりと降りた。
岳嬌がまだ後部座席にどっしりと座っているのを見て、林逸は眉をしかめた。
「張松は今夜私の所に泊まるんだが、君もついて来るつもりか？」
「実は私も付いて行きたくないんですけど、張松がこんな状態なので心配で」と岳嬌は言った：
「付き合い始めてから毎日一緒に寝てるので、私がいないと寝られないかもしれないんです。だから一緒に行かせてください」
岳嬌は張松の腕を引っ張って、「ねえ、私に付いて来て欲しい？」
元々ぼんやりしていた張松は、今はさらに方向感覚を失っていた。
「兄貴...」
「いいよ、もう何も言うな。彼女を連れて行けばいい」
友人の面子のために、林逸は最大限の譲歩をした。
「あの、車に座る場所がないなら、トランクに潜り込んでもいいですよ。一緒に行かせてください」
林逸を置いていって、この高級な付き合いのチャンスを逃すわけにはいかないと、岳海はトランクに乗る案を思いついた。
「車のトランクには運転手さんの折りたたみバイクが入ってる。君が入ったら、バイクをどこに置くんだ？」
「そ、そうですね...」
「それに、君が来て何になるんだ？この件は君に関係あるのか？」
「そんな言い方しないでください。あなたは張松の親友で、私は彼の義理の兄です。私たちはとても近い関係じゃないですか。ちょうど先ほどの酒も足りなかったし、九州閣に着いたらもう少し飲みましょう。今日は酔うまで帰れません」
岳海は張松を見て、「義弟、そうだろ？」
張松も眉をしかめた。岳嬌が一緒に来るのは大きな問題ではないと思った。
でもこんな時になって、彼まで付いて来るなんて、一体どういうことだろう。
うんざりだ。
「ねえ、お兄ちゃんは私の兄だから、これからはあなたの兄でもあるのよ。彼は小さい頃から私にとても優しかったの。このまま置いていくなんて忍びないでしょう？そんなことしたら、家族としてどうやって付き合っていけるの」と岳嬌は言った。
「確かにその通りだけど、それは兄貴の家であって、私の家じゃない。私にはそこまでの決定権はないんだ」
「義弟、そんな言い方はないでしょう。今は後ろ盾ができたからって、私たち親族を切り捨てるつもりなの？」
「もういい、くどくど言うな」張松が困った表情をしているのを見て、林逸も彼を困らせたくなかった。
「行きたいなら付いて来い」
「ありがとう、兄弟。遠慮なく甘えさせてもらいます」岳海は嬉しそうに笑って言った：
「先に行ってください。私はタクシーで後から付いていきます」
何も言わず、林逸は助手席に座り、あきらめたように首を振った。
彼らの事情に口を出す権利は自分にはないが、岳嬌と彼女の家族は本当に良くない。
時間があるときに、この臆病者とちゃんと話し合わないといけない。
約30分後、林逸の車は九州閣に到着した。
岳海はすでに先に着いていた。
しかしタクシーは外来車両として九州閣への入場が許可されず、彼は降りて待つしかなかった。
林逸の車を見て、岳海は笑顔で近づいてきた。
「みんな早かったね。実は私もそんなに待ってないよ。急ぐ必要なかったのに」
林逸が自分に挨拶してくれると思っていた。
しかし予想に反して、ゲートバーが自動的に開き、ベントレーはそのまま中に入っていった。彼のことなど全く気にも留めていなかった。
「兄弟、待ってよ。ここには何棟もの別荘があるから、どれがあなたの家か分からないんだ」岳海は追いかけながら叫んだ。