「あの林亦は電話をかけに行ってずいぶん時間が経つけど、逃げたんじゃないの?」
個室で、邵思思は黎青松に箸で野菜を取り分けながら、好奇心を持って尋ねた。
「可能性はあるな。あいつは強がってるだけで、きっとこの機会に逃げ出したんだろう」傍らの李子明が同意しながら、自分の分の肉を取った。
「逃げたとしても、それは当然のことだよ。結局、恒さんは普通の人が手を出せる相手じゃないからね。でも、林亦が逃げたところで、どこまで逃げられるの?この場所はこれくらいの広さしかないし、車も持ってないでしょ」
黎青松は冷ややかに笑った。「今頃は、恒さんに連れ戻されて、どこかで殴られてるんじゃないか」
黎青松の言葉が終わるか終わらないかのうちに、個室のドアが開いた。
ドアの外から、林亦が入ってきた。彼の隣には身長180センチほどの男性が付いていて、シンプルな服を着ており、ブランドは分からなかった。
「お待たせしました」林亦は欠伸をしながら言った。「紹介します。以前知り合った友人です。一人でいたので、お箸を一膳追加してください」
「はじめまして」夏目はテーブルに座っている人々を見渡し、淡々とした目つきで全員の顔を確認し、軽く頷いた。
「おや、今日はあなたが主催者じゃないでしょう?勝手に箸を追加するなんて」
黎青松の隣の邵思思は林亦の隣の夏目を横目で見た。表面上は不快感を与えるような人物には見えず、むしろ清々しい印象を与える様子だった。
しかし、彼が林亦の友人だと分かった途端、邵思思は心の中で彼を数段見下げた。
類は友を呼ぶというように、どんな人間にもそれなりの友人がいるものだ。
林亦の身分で知り合える友人と言えば、おそらく縣城の田舎者くらいだろう。
「恥知らずね。自分が食い逃げするだけでなく、友達まで連れてきて」馬月瑩が小声で呟いた。
「林亦、この友達はこのリゾートで働いているの?」趙辰は林亦を見て、口角を上げた。
もしそうなら、すべてが納得できる。
林亦の友人はきっとリゾートで雑用をしているのだろう。ドアマンか清掃員のような仕事をしているに違いない。
だとすれば、ここで会うのも当然のことだ。