彼女は無意識のうちにその可能性を信じたくなかった。藤堂澄人の前で、この僅かな「優位性」さえ失いたくなかったのだ。
「私生児は所詮私生児よ。表に出せるものじゃないわ。私が捨てたものを宝物のように見せびらかすなんて、滑稽だと思わない?」
彼女の言葉に、外に立っていた藤堂澄人の表情は一層険しくなった。
彼女が捨てたもの?
彼女は彼のことを、自分が捨てたものと同じだと言うのか?
中から九条結衣の低い笑い声が聞こえてきた。その声には強い皮肉が込められていた。
「遺伝って本当に面白いわね。あなたもお母さんと同じ、他人が捨てたものを拾うのが好きなのね。」
「九条...九条さん、あなた...」
木村靖子は九条結衣のその言葉に完全に打ちのめされ、目は死んだように暗くなった。
九条結衣は先ほどの揉み合いで少し乱れた服を整え、トイレから出ると、外に立っている藤堂澄人の青ざめた顔を目にした。