「うん」
九条結衣は短く返事をして視線を戻し、それ以上何も言わなかった。小林由香里は彼女が信じたかどうか分からなかったが、その後の普段通りの表情を見て、ようやく安心した。
藤堂澄人も二階から降りてきた。小林由香里は食器を並べ終わると、熱心に藤堂澄人の前に歩み寄り、「藤堂さん、夕食の用意ができましたよ。どうぞ召し上がってください」と声をかけた。
小林由香里の言葉に込められた期待と熱意は、誰が聞いても分かるものだった。先ほどの小林由香里の自分に対する反応を思い出し、九条結衣はすぐに理解した。
スープを飲みながら、小林由香里の方をじっと見つめ、心の中で彼女のために溜息をついた。
まだ若すぎるのだ。前回忠告したときも、明らかに聞く耳を持たなかった。今度忠告しても、きっと自分の出世の邪魔をしていると思うだろう。
もういい、好きにさせておこう。
そう思いながら、九条結衣は再び残念そうに首を振った。
彼女のため息をつき首を振るその様子を、藤堂澄人は見逃さなかった。自分と小林由香里の関係を誤解していると思い、瞳が一瞬鋭くなった。
小林由香里を避けるように足を進め、九条結衣の側へと向かった。
彼の冷たい態度に、小林由香里は下唇を噛んだが、何も言えず、ただ彼の後ろについて食卓に着いた。
黙々と食事をする九条結衣の様子を見ながら、彼は何か味気なさを感じていた。何か言いたかったが、どう切り出せばいいのか分からなかった。
九条結衣の食事の速度は決して遅くなかったが、その動作は非常に優雅で美しかった。向かいに座る小林由香里が見せる優雅さとは違い、彼女の優雅さは名家の娘として幼い頃から身についた教養によるものだった。
小林由香里が少し学んだだけでは身につけられるものではなかった。
小林由香里は藤堂澄人の視線が常に九条結衣に向けられているのを見て、また心中で憤りを感じた。
「会社の件はどうなっている?」
九条結衣が黙々と食事をしているところに、突然藤堂澄人がそう尋ねかけ、彼女の手の動きが一瞬止まった。
彼を見上げ、淡々と答えた。「宮崎社長が上手く処理してくれるでしょう」
彼女は藤堂澄人と会社の話を深く討論するつもりはなく、それだけ言うと、もう口を開かなかった。
藤堂澄人もそれ以上は聞かず、ただ「ふむ」と一言言って、箸を動かし始めた。