「ご心配ありがとうございます、奥様。もう解決しました」
藤堂澄人は松本裕司の反応に満足していたが、この場に居続けることは全く歓迎していなかったため、「鍵を渡して、帰っていいぞ」と言った。
「はい、社長。奥様と社長でごゆっくりお楽しみください。失礼します」
あの媚びた表情を見て、九条結衣は思わず「おべっか使い」と罵りたくなった。誰が藤堂澄人のような男と楽しむものか。
藤堂澄人は九条結衣の心の内を知らず、車の鍵を受け取ると、横目で彼女に「食事に誘うんじゃなかったのか?乗れ」と言った。
九条結衣も躊躇わず前に進み、後部座席のドアを開けようとした時、藤堂澄人が「前に座れ」と言った。
藤堂澄人と争うことなく、九条結衣は素直に助手席に座った。
車は緩やかに中華料理店の前で停車し、二人が降りると、すぐにドアマンが駆け寄ってきて、「藤堂さん」と声をかけた。