347.彼にキスを盗む

「お願いね、靖子。あなたって本当にいい人。あの九条結衣のような嫌な女とは大違いよ」

九条結衣の名前を出した途端、藤堂瞳の顔には嫌悪と軽蔑の色が浮かんだ。

木村靖子は目を伏せ、計算高そうに唇の端を上げた。

「もう戻った方がいいわ。長く出てきすぎたから、赤ちゃんがまた泣き出すわよ」

木村靖子は藤堂瞳を気遣うような素振りを見せたが、内心では早く病室から出て行ってほしくて仕方がなかった。

藤堂瞳は深く考えることもなく、すぐに頷いて言った。「そうね、急いで戻らないと。お兄さんのことはよろしくお願いします」

「安心して、澄人さんのことはしっかり看病させていただきます」

藤堂瞳が去った後、木村靖子は藤堂澄人の傍らに座り、布団の上に置かれた彼の手を取って強く握りしめた。瞳の奥には執着と欲望の色が宿っていた。

これは彼女が初めて藤堂澄人にこれほど近づけた瞬間だった。その端正な容姿は、まるで神が丹精込めて彫り上げた芸術品のようで、どの角度から見ても完璧な美しさを放っていた。

木村靖子はただ静かに彼を見つめ、自分の鼓動が加速していくのを感じていた。

認めざるを得なかった。藤堂澄人がどれほど彼女に冷たく当たろうとも、彼女は本能的に彼に惹かれ、抗いがたい魅力の虜になっていた。まるで炎に飛び込む蛾のように、死ぬまで止められないのだった。

彼女の手が、そっと藤堂澄人の頬に触れた。心臓の鼓動は自然と早くなり、体が少しずつ前に傾いていき、血の気のない彼の唇に徐々に近づいていった。

瞳の奥には隠しきれない渇望が浮かんでいた。

「澄人さん、あなたは私のもの。私、あなたが大好き。本当に大好き。分かる?」

彼女の唇は藤堂澄人の唇に近づき、互いの息遣いが混ざり合うのを感じながら、木村靖子の頭の中は藤堂澄人との愛の行為で一杯になり、顔は次第に赤くなり、心臓の鼓動はますます激しくなっていった。

「澄人さん……」

彼女の唇が藤堂澄人の唇めがけて落ちていったが、触れる直前、手首を握っていた手が突然強い力で掴まれた。

次の瞬間、藤堂澄人の閉じていた瞳が突然開かれ、木村靖子の目は深い淵のような瞳と真正面からぶつかった。その目は、まるで人を喰らう野獣のようで、彼女を見つめるだけで全身を千切りにされるような感覚に陥れた。