「お願いね、靖子。あなたって本当にいい人。あの九条結衣のような嫌な女とは大違いよ」
九条結衣の名前を出した途端、藤堂瞳の顔には嫌悪と軽蔑の色が浮かんだ。
木村靖子は目を伏せ、計算高そうに唇の端を上げた。
「もう戻った方がいいわ。長く出てきすぎたから、赤ちゃんがまた泣き出すわよ」
木村靖子は藤堂瞳を気遣うような素振りを見せたが、内心では早く病室から出て行ってほしくて仕方がなかった。
藤堂瞳は深く考えることもなく、すぐに頷いて言った。「そうね、急いで戻らないと。お兄さんのことはよろしくお願いします」
「安心して、澄人さんのことはしっかり看病させていただきます」
藤堂瞳が去った後、木村靖子は藤堂澄人の傍らに座り、布団の上に置かれた彼の手を取って強く握りしめた。瞳の奥には執着と欲望の色が宿っていた。