336.自分を押し殺すほうがまし

藤堂澄人は席に戻り、シャツの襟を引っ張りながら、ソファに身を預け、手に持ったお酒を一口一口と飲み干していった。

90度のグレナダラムを湯水のように、命知らずに飲み続けた。

田中行は見かねて、彼の手からお酒を奪い取った。「胃が悪いんだから、もう飲むな」

藤堂澄人は酔いで赤くなった目で、田中行を冷たく一瞥したが、何も言わず、取り返そうともせず、テーブルの上の別のボトルに手を伸ばした。開けようとした瞬間、また田中行に奪われ、床に叩きつけられた。

「もういい加減にしろ!離婚したぐらいで、殉情する必要があるのか?諦められないなら彼女を追いかければいい。プライドが邪魔なら、それは自業自得だ」

藤堂澄人は酔いで朦朧とした目で田中行を見つめ、突然笑みを漏らした。

ソファの背もたれに頭を預け、天井を見上げながら、一呼吸一呼吸を繰り返し、まるで眠ってしまったかのように静かだった。

しばらくして、田中行は藤堂澄人の声を聞いた。「九条結衣が俺と離婚した」

その声は非常に掠れていて、それが酒のせいなのか、それとも彼があまりにも辛かったからなのか分からなかった。

田中行はその言葉を聞いて目を上げ、彼を見た。ソファに寄りかかって笑っているが、その表情は明らかに深い悲しみを帯びていた。

「九条結衣は本当に俺と離婚したんだ」

彼は突然うつむき、落ち込んだ表情で、その言葉を呟いた。自分に言い聞かせているのか、それとも田中行に打ち明けているのか分からなかった。

田中行は表情を曇らせ、彼の様子を見て、自業自得と言うべきか、同情すべきか迷った。

離婚してから半年も経つのに、今更離婚したことに気付いたのか?

いや、彼は今になって九条結衣が本当に彼の元を去ったことを実感したのだ。そうでなければ、こんなに苦しむはずがない。

当初、どれほど自信満々に離婚を要求したかと思えば、今はそれだけ後悔し、惨めな思いをしている。

「あいつは寛容になれって、諦めろって言うけど、何の権利があってそんなことを言える?」

「あいつは知らないんだ、俺が何年も好きだったことを、知らないんだ...」

「はっ!あいつは俺が諦めたくないと思ってるのか?三年かけて必死に諦めようとしたのに、できない、諦められない...」