488.藤堂社長は"腹黒女

目を上げると、藤堂澄人の優しい微笑みと目が合った。「眉を寄せすぎると、しわができちゃうよ」

九条結衣が何か言おうとした時、藤堂澄人が身を屈めて彼女の耳元で囁いた。「心配しないで、気をつけるから」

「誰があなたのことを心配してるの?あなたの技術が下手で、背中から落とされるのが怖いだけよ」

藤堂澄人に自分の心配が見透かされ、九条結衣の顔には少し困惑の色が浮かんだ。

藤堂澄人の笑みを帯びた目を避けながら、彼女は目を伏せて小声で言った。しかし、耳たぶはまた熱くなっていた。

藤堂澄人は彼女のこの素直になれない様子が本当に大好きで、思わず抱きしめてキスしたい衝動に駆られたが、この時は我慢した。

細めた目には熱のこもった視線を宿し、九条結衣の赤くなった耳を見つめながら、うれしそうに低く笑って言った。「僕の技術がどうかは、うちの息子が一番の証拠じゃないかな?」

九条結衣:「……」

この人と話すべきじゃなかった。こんな軽薄な言葉をどこで覚えてきたのか。

彼女の普通の一言に、彼はすぐさま色っぽい返しができてしまう。

試合が正式に始まった——

九条初は急いでパパとママの傍について、目を輝かせていた。

各組の保護者が準備を整え、九条結衣も覚悟を決めて藤堂澄人の背中に乗った。

彼女は太っていないものの、170センチ以上の身長があり、他の母親たちと比べると重い方だった。

彼女の躊躇いを感じ取り、藤堂澄人は振り返って彼女を見て、安心させるような目配せをしながら言った:

「大丈夫だよ。安心して座って。落ちそうで怖かったら、僕にしがみついてもいいよ」

九条結衣:「……」

本当に、いつでも彼女に対して得をしようとしている。この口を縫い合わせてやりたい。

試合の笛が鳴り、男たちは皆の前で自分を見せつけようと、腕立て伏せを特に力を入れてやっていた。

藤堂澄人が片手で腕立て伏せをしているのを見て、しかも動作が正確で表情も余裕があるのを見た他の男たちは、心の中でこの「腹黒野郎」を罵った。妻の前でアピールするなんて。

時間が経つにつれ、多くの人が限界に達し、片手どころではなくなり、次々と脱落していった。最後には北条春生と藤堂澄人の二人だけが残った。