小林由香里は松本裕司の手を振り払い、慌てて逃げようとした。松本裕司は彼女の言葉を聞いて、嘲笑うように笑った。
「奥様は無事でしたが、それは社長の行動が早かったからであって、あなたが手加減したからではありません。なぜ社長の功績があなたのものになると思うのですか?もし奥様に何かあったら、あなたがここで平然と話せると思いますか?」
リビングのティッシュを取って手を拭き、何か汚いものに触れたかのようだった。
そして、彼はボディーガードたちを見て言った。「ボスの指示通り、彼女の手の腱を切れ」
「はい」
「いやっ……私にそんなことはできない、訴えてやる、傷害罪で訴えてやる……」
「訴えればいい。ちょうど私たちには、あなたを一生刑務所に入れられるだけの証拠が十分にありますからね」
松本裕司の言葉に、小林由香里はもはや抵抗する意味を失い、その場に崩れ落ちた。
松本裕司がオタクの前に歩み寄り、手を広げて「携帯は?」と尋ねた。
そのオタクは、腱を切ると言えば切る、腕を潰すと言えば潰すような場面を初めて目にして、かなり怯えていた。
松本裕司が携帯を要求すると、慌てて内ポケットから取り出して彼に渡した。
松本裕司が手際よく携帯を分解し、メモリーカードを取り出して、携帯を彼に投げ返すのを見た。
「この女に騙されただけということで、今回は罪を償う機会を与えよう。これからは賢く立ち回るんだな」
そう言って、小林由香里のアパートを後にした。
ボディーガードが小林由香里の手をどのように潰したかは、彼が見たい光景ではなかった。
結局のところ、彼は「か弱い書生」なのだから、そのような残虐な場面は彼を怯えさせるだけだった。
そのオタクは当然、松本裕司が言う「罪を償う機会」が何を意味するのか分かっていた。小林由香里の常識を覆す行為を思い出し、自分を馬鹿にするように騙していたことを考えると、もはや彼女に同情する気持ちなど微塵もなかった。
彼女が警備員に右手の腱を切られるのを目の当たりにしても、まばたきひとつせずに見つめ、その後、雫と立ち去った。
山の下の女は虎だ、見かけたら必ず避けるべきだ。
オタクは心の中でそう思った。
藤堂澄人が小林由香里を送り届けると提案した後、九条結衣も九条初を連れて直接帰宅した。
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