686.イチャつくカップルを見て不愉快

思わず心の中で目を転がし、何気なく振り向くと、ちょうど田中行の視線と目が合った。

二人の視線が、そのまま重なり合った。

彼女の心臓は、思わず一拍抜けてしまい、慌てて視線を外したが、慌てすぎて足元に気を付けず、中庭の玉石で敷き詰められた小道につまずき、脇の茂みに向かって倒れ込んでしまった。

茂みの脇には、小さな假山がいくつかあり、夏川雫がこのまま倒れたら、確実に顔を怪我するだろう。

しかし今となっては、避けることもできず、顔を怪我する覚悟を決めて、目をきつく閉じた。次の瞬間、腰に強い力が加わり、引き戻された。

夏川雫は危機一髪で助かったことに内心ほっとしたが、すぐにこの状況で彼女を引き戻せる人物が誰なのかに気付き、体が急に硬直した。

そして、懐かしくも久しぶりの抱擁に包まれ、胸から聞こえる乱れた鼓動を聞きながら、彼女の心臓は激しく締め付けられた。