思わず心の中で目を転がし、何気なく振り向くと、ちょうど田中行の視線と目が合った。
二人の視線が、そのまま重なり合った。
彼女の心臓は、思わず一拍抜けてしまい、慌てて視線を外したが、慌てすぎて足元に気を付けず、中庭の玉石で敷き詰められた小道につまずき、脇の茂みに向かって倒れ込んでしまった。
茂みの脇には、小さな假山がいくつかあり、夏川雫がこのまま倒れたら、確実に顔を怪我するだろう。
しかし今となっては、避けることもできず、顔を怪我する覚悟を決めて、目をきつく閉じた。次の瞬間、腰に強い力が加わり、引き戻された。
夏川雫は危機一髪で助かったことに内心ほっとしたが、すぐにこの状況で彼女を引き戻せる人物が誰なのかに気付き、体が急に硬直した。
そして、懐かしくも久しぶりの抱擁に包まれ、胸から聞こえる乱れた鼓動を聞きながら、彼女の心臓は激しく締め付けられた。
思わず目を上げると、底知れない黒い瞳と出会い、その深い瞳から漏れ出る冷たさを感じた。
夏川雫の表情は少し硬くなり、下げていた手は、再び本能的に握りしめられた。
乾いた唇を動かし、かすれた声で開口した。「ありが...」
お礼の言葉が口まで出かかったところで、田中行は既に彼女から手を離し、彼女の顔をほとんど見ることなく、彼女を避けて別荘へと向かった。
夏川雫はその場に立ち尽くし、目を伏せて軽く唇を噛んだ後、しばらくしてから歩き出し、中へと入っていった。
この別荘はとても大きいが、部屋数はそれほど多くない。藤堂澄人夫妻の部屋が一つ、九条初は「妹作り」を口実に父親に追い出され、母親と同じ部屋で寝ることになった。
別荘内には、まだ二つの部屋が残っており、ちょうど田中行と夏川雫に割り当てられた。
それぞれの部屋に戻った後、藤堂澄人は九条結衣がベッドの端に座り、眉をひそめているのを見て、心配そうに近寄った。
「数時間のフライトで疲れたかな?」
「大丈夫よ、ただ何故か時々胸が苦しくなったり、吐き気がしたりするの。」
昨日も九条結衣から突然の吐き気について聞いていた藤堂澄人は、今度は吐き気に加えて胸の苦しさまであると聞いて、心配で胸が締め付けられた。
「行こう、島の病院で診てもらおう。」
「いいの、きっと数時間のフライトで疲れただけよ。少し横になって休むわ。」