「このあまっ、ぶっ殺してやる……」
言葉が途切れたのは、九条結衣が腹部めがけて蹴りを入れたからだった。
鈴木大輔という男は、明らかに女遊びが過ぎて体が弱っていた。もともと痩せ細った体格で、下半身もふらついていたため、九条結衣の一蹴りで砂浜に転がった。
顔を下に向けたまま、砂を思いっきり食らい、みすぼらしくも滑稽な姿に、周りの人々は思わず笑い声を上げた。
鈴木大輔は女にこんなに惨めな目に遭わされたのは初めてで、もはや体面など気にしていられなかった。
インフルエンサーの彼女に助け起こされた後、彼は獰猛な表情で九条結衣を睨みつけ、まるで狂った野獣のように彼女を食い殺さんばかりだった。
九条結衣は彼を上から下まで見渡し、目に浮かぶ嘲笑の色は一層濃くなった。
「体が弱っているなら、帰って養生したほうがいいわよ」
そう言って、彼女は同じく怒り心頭の夏川雫の手を引いて立ち去ろうとした。
まったく縁起でもない。こんなバカに会うなんて分かっていたら、来なかったのに。
九条結衣は鈴木大輔のことなど相手にしたくなかったが、鈴木大輔は彼女をこのまま行かせるわけにはいかなかった。
藤堂澄人の奥さんだろうが関係ない、殺してやる。
「このあばずれが……」
鈴木大輔が突進しようとした時、九条結衣の行動に呆気にとられていた高橋夕に突然止められた。
「大輔、やめて。話し合いで解決しましょう」
鈴木建国と高橋洵は親しい付き合いがあり、そのため鈴木大輔と高橋夕も幼い頃から一緒に育った親友同士だった。隣家の妹のような高橋夕に対して、鈴木大輔は優しかった。
高橋夕に引き止められても、彼は乱暴に振り払うことはしなかったが、顔の獰猛な表情は少しも和らがなかった。
高橋夕が目配せするのを見て、彼女は九条結衣に向かって歩み寄り、困ったような表情を浮かべた。
「藤堂奥様、先ほどから何度も私を侮辱する言葉を投げかけられ、私も我慢してきました。大輔は善意で仲裁に入っただけなのに、どうして突然暴力を振るうのですか?これは少し行き過ぎではないでしょうか?」
高橋夕の声は九条結衣には意図的に大きくしているように聞こえた。下唇を噛みながら、まるで死ぬほど虐げられているかのような可哀想な様子を演じていた。このような演技を、九条結衣は十分すぎるほど知っていた。