このように黙り込んでいる九条結衣に、藤堂澄人は心の中で不安と後ろめたさを感じながら、結衣の手を取ろうとして、「結衣...」
言葉を発した途端、結衣にすぐさま振り払われてしまった。
そして、救急箱から消炎薬と水を取り出し、彼の傍らに置くと、ゴミ袋を手に取り、書斎に横たわる藤堂澄人を置き去りにして、一言も発せずに出て行った。
藤堂澄人:「……」
たった30分前、彼は結衣に対して同じような態度を取っていたのに、こんなにも早く自分に跳ね返ってきてしまった。
この状況で、澄人が妻の言うことを聞かずに更に怒らせるなんてことはできるはずもない。
妻が怒り出したら、その結果は非常に深刻なものとなるのだから。
彼は結衣が目の前に置いていった消炎薬を迷わず手に取り、ぬるま湯で一気に飲み込むと、書斎を出て服を着替え、結衣が部屋にいないのを確認すると、急いで外に出て「許しを請う」時間を作った。
田中行が手配した医者が別荘に到着した時、結衣はちょうどゴミを玄関前のゴミ箱に捨てているところだった。
玄関で思いがけず結衣と出くわした医者は、一瞬驚いた後、すぐさま挨拶をした。「奥様。」
その呼び方を聞いただけで、結衣はこの医者が普通の島の医者ではなく、きっと藤堂澄人の腹心であることを悟った。そうでなければ、「藤堂奥様」と呼ぶはずだった。
「澄人を探しているの?」
結衣は分かっていながらも尋ねた。
医者は自分の表情管理がうまくいっているのか、結衣に見透かされていないか分からなかったが、表面上は極めて冷静に頷いた。
「はい、島の重要な政策について、社長に最終決定の確認を取る必要がございまして。」
結衣は彼が手に持っている牛革で包まれた診療カバンを一瞥し、心の中で冷ややかに笑った。
本当に周到なことだわ、医療カバンまで偽装しているなんて。
「彼は中にいるわ、どうぞ。」
「ありがとうございます、奥様。」
医者は診療カバンを持ち、藤堂澄人の怪我を心配して、思わず足早に歩いた。
しかし寝室の入り口に着いた途端、薄灰色の部屋着姿の藤堂澄人が焦った表情で中から出てくるのが見えた。
「社長。」
医者はすぐに声をかけ、藤堂澄人の顔色は依然として幾分青白かったものの、状態はそれほど悪くなさそうに見えた。
さすがボスは違う、怪我をしても一般人より耐えられる。