1008.犬に人の威を借る

そして彼女が先ほどまで皆に羨ましがられていた優越感は、この瞬間、受付のあの一言「木村さん」によって台無しにされた。

先ほどまで藤堂グループの社員たちは、みんな彼女のことを九条さんと呼んでいたのに、なぜこの受付だけがこんなに気が利かずに木村さんと呼ぶのか。

彼女から見れば、この受付は故意にそうしているのだ。彼女を見下しているから、木村さんと呼ぶのだ。

この受付は九条結衣の手先だ!

木村靖子の心がこのことを確信すると、受付を見る目はさらに冷たくなった。

受付は彼女の視線に思わず身震いし、自分が何をして彼女の機嫌を損ねたのか全く分からなかった。

彼女が木村さんと呼んだのは、純粋に彼女が木村靖子と呼ばれていることを知っていただけで、他意は全くなかった。

木村靖子自身が内心卑屈だからこそ、他人が自分を見下していると感じるのだ。

「何か用?」

木村靖子はあごを少し上げ、傲慢に受付を見た。

「申し訳ありません、木村さん、予約はされていますか?」

「予約?」

木村靖子は軽蔑の表情で受付を見て、冷ややかに鼻を鳴らし、言った。

「目が見えないの?私が誰か分からないの?私が予約なんて必要?」

受付は彼女のそんな直接的な罵倒に、顔色が青ざめ、目に悔しさが浮かんだ。

「申し訳ありません、これは私の職務です。予約がなければ、上がることはできません。さもないと会社から職務怠慢と判断され、私は仕事を失ってしまいます。」

「ふん!」

木村靖子は一笑し、受付が反応する間もなく、平手打ちを顔に浴びせ、受付を呆然とさせた。

ビルの下を通りかかった人々までもが、この騒ぎに驚いた。

受付は木村靖子と藤堂澄人の間の親密な関係を知っていたので、叩かれても反撃する勇気はなかった。

ただ熱くなった頬を押さえ、潤んだ目で木村靖子を見て、言った。

「木村さん、どうして人を叩くんですか?」

「なぜあなたを叩いてはいけないの?目が見えない犬のように私が誰か分からず、私に予約しろだって?そんなに気が利かないなら、まだこの仕事がしたいの?」

木村靖子は受付を見て、鼻を高くし、威張り散らす様子に、人々は眉をひそめずにはいられなかった。

みんな彼女が今、小人物が得意になっていることを知っていた。

しかし彼女の後ろには社長が控えているため、誰も彼女に何もできなかった。