前世でこんな馬鹿に騙されるなんて

道乃漫は彼の唇に寄り添い、思い切って深く入り込み、憧れの男性と情熱的なフレンチキスを交わした。

唇が離れた時、彼女の心臓は激しく鼓動し、頬は紅潮していた。

まつ毛で視線を隠しながら、神崎卓礼の瞳がかすかに熱を帯びて深くなっているのを見た。

魔が差したのか、道乃漫は再び彼の唇を舐めた。

神崎卓礼の瞳が鋭く細まり、そこには深い危険な光が宿っていた。

元々両手は余裕たっぷりに垂れていたが、この時突然、彼女の腰にがっちりと回された。

掌が触れた瞬間、バスタオル一枚を隔てただけで、彼女が本当に何も着ていないことが分かった。単なるポーズではなかった。

この女は、一体何をしようとしているのか?

神崎卓礼がそれを探る間もなく、ドアの外から怒声が響いた。「道乃漫!」

道乃漫は振り返り、神崎卓礼から離れようとしたが、逆に神崎卓礼が彼女を放さなかった。

手のひらは依然として彼女の腰をしっかりと押さえており、先ほどは気づかなかったが、今になって腰が激しく熱くなっているのを感じた。まるで焼き印でも押されたように。

道乃漫が顔を上げると、加藤正柏の怒りに赤く染まった目と合った。「道乃漫、これはどういうことだ。なぜここにいる?」

道乃漫は小さく鼻で笑い、顎を上げた。「私がここにいる理由?見れば分かるでしょう?」

加藤正柏にはあまりにもよく分かっていた!

神崎卓礼はバスタオル一枚、彼女も同様、他に何があるというのか?

「お前は俺を裏切った!」加藤正柏は道乃漫を指差して怒鳴った。「いつからだ!」

道乃漫は軽く笑った。「君と道乃琪ほど長くはないわ。」

ホテルの支配人とスタッフは思わず道乃琪の方を見た。

道乃琪は今や人気女優で、一挙手一投足がニュースになる存在だ。恋愛関係となればなおさらだ。

つまり道乃漫の言葉は、道乃琪が加藤正柏と付き合っているということだった!

「何を言い出すんだ!」加藤正柏の顔色が変わった。

道乃琪も緊張して顔を強張らせた。彼女は加藤正柏との恋愛が明るみに出ることは気にしていなかったが、このタイミングは避けたかった。

そうでなければ、彼女は第三者という汚名を着せられることになる。

「私が嘘を?」道乃漫は神崎卓礼が手を放さないのを見て、思い切って神崎卓礼の胸に寄りかかり、両手を彼の肩に回した。その姿は、男を破滅させる魅惑の女そのものだった。

どうせ憧れの男性に甘えられるのだから、損はない。

道乃漫は顎を突き出して言った。「私の可愛い妹の首には、あなたが贈った愛の証のネックレスが掛かっているわ。ペンダントの裏には二人の名前と記念日が刻まれているの。見てみる?」

今考えると、前世の自分は本当に愚かだった。

この二人は数え切れないほどの証拠を残していたのに、自分はまるで盲目のまま信じ込んでいた。

今なら分かる。すべてを知っている今、加藤正柏がこんなにも愚かで、こんな明白な証拠を彼女に残していたことが分かる。

前世でこんなバカに引っかかっていたなんて、死んでも文句は言えない。

加藤正柏の目に動揺と慌てが浮かぶのを見て、道乃漫の胸の中の怒りが爆発した。

彼女と加藤正柏は幼なじみだった。そうでなければ、今の家での立場、実の父親が継娘しか目に入らない状況では、加藤正柏と付き合うことなど不可能だっただろう。

彼女の母と加藤奥様は親友で、とても仲が良かった。だからこそ、彼女が小さい頃から、よく加藤正柏を道乃家に連れてきていた。

二人は徐々に感情を育んでいった。

後に道乃啓元が浮気をして道乃琪の母親である夏川清翔と関係を持ち、そして彼女の母と離婚した後も、加藤正柏は彼女を見捨てなかった。むしろ同情から、より一層彼女に優しくなった。

そして彼女はいつも彼の当時の優しさを覚えていたからこそ、ずっと思い出の中に自分を閉じ込め、加藤正柏が彼女を裏切るなど考えもしなかった。