086 神崎卓礼に話して、琪にキャスティングを頼んで

退職？

新入社員の彼女は、神崎創映での給料が以前道乃琪のアシスタントをしていた時の5倍もあった。

以前の給料がいかに低かったかが想像できる。

道乃啓元によく退職を勧められたものだ。

道乃啓元の顔は既に紫がかった赤色に変わっていた。「お前のような者が、どうやって神崎創映に採用されたというんだ？大学も卒業していない、何の経験もない人間が、自力で入れるわけがない。神崎卓礼が手を回したんだろう。」

道乃漫は表情を引き締めた。「あなたは私を娘とも思っていない、心の中には道乃琪しかいない。これまでの年月、私もその現実を受け入れてきた。はっ、よく私が大学を卒業していないことを軽蔑できますね？なぜ卒業できなかったか、分かっているでしょう？私が神崎創映に入れたのは、私の実力があったからです。言わせてもらえば、あなたたちに感謝しないといけないわね。あなたたちが私を追い詰め、窮地に追い込み、反抗せざるを得なくしなければ、私はネットで騒ぎを起こすこともなかった。神崎創映は、まさにそんな私の波風を立てる才能を買ってくれたのよ。」

道乃啓元は歯を食いしばり、深く息を吸い込んだ。「お前と神崎卓礼がどういう関係かは知らない。だが、お前が彼を知っているなら、神崎創映の映画やドラマで琪に役を与えるよう話してくれ。できれば主演、最低でも準主演だ。それに、主演より出番が少なくてはいけない。」

道乃漫は呆れて笑ってしまった。以前はこれほどまでに道乃啓元が幼稚で滑稽だとは気づかなかった。

「はっ、道乃琪の今の状況で、まだ主演だの、主演より出番の多い準主演だのと。自分が何様だと思っているの？」道乃漫は躊躇なく皮肉った。

「今回の一件がなければ、山ほどの台本が彼女を待っていたはずだ。準主演なんて考えもしない、そうでなければ神崎創映に拾われる必要もなかった。」道乃啓元は言った。

道乃漫は、道乃啓元の道乃琪への自信がどこから来ているのか分からなかった。「冗談はやめてください。道乃琪が全盛期の時でさえ、神崎創映の作品には出演できなかったのに、今さら主演や準主演を選り好みできると？」

「お前は神崎卓礼を知っているんだろう？琪の知名度があれば、なぜ選べないんだ？」

道乃漫は唇を歪めた。道乃啓元の厚かましさには呆れる。「彼女に今、どんな知名度があるというの？」