115 特別扱いとは言えない

道乃漫は武田立则の含蓄のある視線に気付かず、むしろ神崎卓礼の視線に気が付いた。

神崎卓礼の視線があまりにも鋭く、まるで実体のように彼女の顔に注がれ、武田立则の視線を完全に上回っていた。

彼の目に浮かぶ理解の色に気付き、彼女が意図的に大澤依乃の罠を仕掛けていたことを見抜かれたようだった。

しかし彼は少しも怒っている様子はなく、むしろ興味深そうに彼女を見つめていた。

道乃漫は神崎卓礼の視線に背筋が凍る思いで、思い切って事務机に向かい、神崎卓礼から渡された企画書を取りに行った。

背を向けても、神崎卓礼の実体のような視線は彼女の背中に注がれ続けていた。

道乃漫の歩き方までぎこちなくなった。

もう少しで手足がバラバラになりそうだった。

ようやく硬直した動作で書類を持ち帰り、大澤依乃に渡して、「これが元々私が担当することになっていた企画書です。ご覧ください」と言った。