「ありがとうございます、橘兄さん、柳田姉さん」高橋勉真は満面の笑みを浮かべながら言った。「今回、現場に行けるチャンスをいただけただけでも、とても満足です。私より優秀な人はたくさんいますから、受賞については本当に期待していません」
受賞はできなかったものの、ノミネートされただけでも素晴らしい経歴になる。
「そんなことを言わないで。あなたは我が社の広報部の人間だよ。うちの部署の人間は、誰一人として独り立ちできない人はいない。社内での競争は激しいかもしれないが、外に出れば、トップクラスの実力だよ」武田立则は笑顔で励ました。
「新人賞のノミネートは?」夏川夢璃は急いで尋ねた。
そう言いながら、道乃漫をちらりと見た。
今回も、まさか道乃漫に行くわけないでしょう!
もしそうなら、絶対に社長に説明を求めなければ!
武田立则がどれほど道乃漫を気に入っているとしても、そこまでするのはおかしいでしょう?
しかも、彼女はあと一ヶ月で入社一年になる。
つまり、今年が唯一のチャンスなのだ。
今年ノミネートされなければ、ゴールデンフィンガー賞のノミネートを待つしかない。
しかし、ゴールデンフィンガー賞はメインの賞として競争が激しすぎる。それよりも新人賞の方が、彼女には自信があった。
武田立则が道乃漫を一瞥したことで、夏川夢璃の心臓が一瞬止まりそうになった。
「今年の最優秀新人賞のノミネート枠を、会社は夏川夢璃に与えることにした」武田立则が発表した。
夏川夢璃は喜びの声を上げた。
葉月星が解雇されて本当に良かったと、今は心から思っている。そうでなければ、最優秀新人賞のノミネートを巡って、また競争になっていただろう。
葉月星がいれば、最終的に誰に行くか分からなかった。
「最終的に受賞できるかどうかは、もう私たちの手の届かないところだ。お二人とも気を楽にして、平常心で。今週の金曜日の夜、授賞式に出席してください」武田立则はそう言って、オフィスに戻った。
高橋勉真の心構えは良好で、ノミネートされただけでも十分だと考え、興奮が収まるとすぐに仕事モードに戻った。