362 道乃漫の背後の人

元々は白泽霜乃のメイクをもっと丁寧にしようと思っていたが、メイクさんも今では気が立っていて、適当にやってしまおうと決めた。

「出発まであとどのくらい?」と白泽霜乃が尋ねた。

梨沙は携帯を見て、「あと一時間半です」と答えた。

「こっちに来て」白泽霜乃は梨沙に手招きした。

梨沙が近づくと、白泽霜乃はメイクさんに手を振って、「ちょっと外に出ていてください」と言った。

メイクさんは今では落ち着いていた。白泽霜乃のような頭の悪い人に腹を立てるのは、自分の品格を下げるようなものだと思った。

そこでメイクさんは二つ返事で二人の助手を連れて部屋を出て、廊下で待つことにした。

「霜乃姉、何かご用でしょうか?」梨沙は取り入るように小声で尋ねた。

「道乃漫の部屋に行って、詩川雅乃かどうか確認してきて。もちろん、これが主な目的じゃないわ。ついでよ」と白泽霜乃は言った。

梨沙は突然嫌な予感がして、「じゃあ...主な目的は何なんですか?」

白泽霜乃は不気味に口角を下げて、「部屋に入って、道乃漫が今夜のプレミア用の服に着替えているかどうか見てきて。まあ、普通はまだ着替えてないはずよ。何とかして彼女の服を台無しにしてきて。時間を見計らってやるのよ。新しい服を買いに行く時間がないようにね」

「それは...」梨沙は行きたくなかった。「それは難しすぎます。部屋には大勢の人がいますよ」

「人が多いからこそやりやすいのよ。みんなバタバタしてるから、誰もあなたなんか気にしないわ」白泽霜乃は立ち上がり、デスクの道具箱からカッターナイフを取り出した。「持って行きなさい」

梨沙は目を丸くして驚いた。このカッターナイフはホテルが用意したものではないはずだ。

厳密に言えば凶器になり得るもので、ホテルがこんな道具を用意するはずがない!

白泽霜乃は明らかに準備万端で、今夜の道乃漫のデビューを台無しにする気満々だった。

「早く取りなさい!」白泽霜乃は陰鬱な表情を浮かべた。

梨沙は首を振った。「霜乃姉、あんなに大勢見てるんですよ。私...捕まったらどうするんですか?」