白洲成木が知らなかったのは、橋本奈奈の目には、白洲隆を連れて行くことは息子を連れて行くのと同じだということだった。
「言わなければ言わないで、私はもうあの大野宏なんか相手にしたくないわ。大野宏が家にいた時は、毎日お兄さんお兄さんって呼びかけて、おじいさんに私が彼を無視してるって告げ口までしたんだから。ずるくて、狡猾で、陰険で、悪いやつ!」白洲隆は自分の知っている限りの悪い言葉を、子供らしく全て大野宏に投げつけ、白洲成木の大野宏に対する悪い印象をさらに深めた。
白洲成木は唇を一文字に結んで言った。「確かにお前は橋本奈奈から学ぶべきことが多い。特に国語だ。私は橋本奈奈が作文で一位を取れると確信している。」
橋本奈奈はたった一言で、彼に大野宏についての理解と認識を深めさせることができた。息子はこんなにたくさんの言葉を使って大野宏を形容したが、彼にはただ滑稽に思えた。
この差は少しどころではなかった。
「橋本奈奈がどの高校に進学するか知ってるか?」
「平泉中学校だよ。奈奈さんが早くから教えてくれたんだ。」
「付属高校の方がいいんじゃないのか?」
「奈奈さんが言うには、彼女の成績なら平泉中学校なら学費が免除されるんだって。奈奈さんの家は経済的に厳しくて、お母さんが頭おかしいから、家のお金を全部使って外祖父に頼んで姉を付属高校に入れたんだって。能力もないのに無理して行くなんて、バカじゃないの。でも僕から見れば、一番バカなのは奈奈さんだよ。姉が家のお金を全部使っちゃったのに、なんで橋本家のために節約して、平泉中学校なんかに行って、奨学金まで稼がなきゃいけないの。彼女は優しすぎるし、親孝行すぎる。そう、これを愚孝というんだ!」
白洲隆は珍しく適切な言葉が使えたことを嬉しく誇らしく思った。奈奈さんと一緒にいる時間が無駄じゃなかった証拠で、彼の国語力は着実に上がっているのだ。
「愚孝?」白洲成木は意味深な笑みを浮かべた。「隆、これまで国語を勉強してきて、『巣が崩れれば卵も無事ではいられない』という言葉の意味がわかるか?」
お嬢ちゃんは愚かどころか、とても賢かった。
橋本東祐は橋本家唯一の経済的支柱で、この柱が折れてしまえば、橋本奈奈どころか、橋本家の二人の娘は誰も学校に通えなくなる。