しかし伊藤佳代は自分に言い聞かせていた。橋本東祐はやっと目覚めたばかりで、元気がなく、ぐったりしていて、人と話さないのも当然だ。そうでなければ患者とは言えないだろう。だからそれは自分の気のせいかもしれない。
でも橋本絵里子までそう言うので、伊藤佳代は心の中で何となく不安になった。
「もういいの。お父さんはまだ病気で、傷も痛むはずよ。お父さんは話す元気がないだけだから、あまり考えすぎないで」橋本絵里子の頭を撫でながら、伊藤佳代のその言葉は橋本絵里子を慰めているのか、それとも自分自身を慰めているのか分からなかった。
夕方になると、母と娘三人のうち誰かは家に帰らなければならず、誰かは残って橋本東祐の世話をしなければならなかった。
伊藤佳代が何か言う前に、橋本東祐が先に口を開いた。「今夜は奈奈が帰って、絵里子が残って私の世話をする」