橋本東祐の言葉に、橋本絵里子と伊藤佳代の顔が明るくなった。事態が好転するのだろうか?
「東祐、私たちは長年連れ添った夫婦だから、あなたがそんなに冷たくなるはずがないと分かっていたわ。絵里子はずっとあなたの一番のお気に入りで、一番可愛がっている娘よ。私たちを見捨てるはずがないわ」伊藤佳代は急いで顔の涙を拭った。「東祐、奈奈はさっきあの人に連れて行かれたわ。私たち四人家族は、四人そろってこそ完全な家族なの。私、私たち今すぐ奈奈を連れ戻しましょう」
伊藤佳代は、橋本東祐がこの家を出て行こうとしているのは橋本奈奈のためだということをよく分かっていた。
だから、橋本奈奈が外にいる限り、橋本東祐は必ず引っ越すだろう。
橋本東祐を引き止めるために、橋本奈奈という娘をどれほど嫌っていても、連れ戻さなければならない。それどころか、今後は神様のように大切にしなければならない。そうしないと、奈奈がまた家出をして、夫を失い、絵里子が父親を失うことになってしまう。