伊藤佳代はびくっと震えた。そこまでやらなければならないのか?
伊藤佳代が小刀を受け取らないので、橋本絵里子は強引に伊藤佳代の手に小刀を押し込んだ。「ママ、私の言ったことを覚えてる?」
「覚、覚えてるわ」伊藤佳代は冷や汗を流した。この冷や汗が自分のためなのか、それとも学校にいる橋本奈奈のためなのか分からなかった。
大きなショックを受けた橋本東祐は午前中ずっと意識がもうろうとしていて、風邪まで引いてしまった。橋本奈奈は勉強と授業以外の残りわずかな心の余裕を、橋本東祐を気遣うことに使っていた。
父娘二人は、付属高校から退学させられた橋本絵里子がここまで狂気じみていて、どうしても橋本奈奈を道連れにして死のうとするとは夢にも思わなかった。
「絵里子、家にいる?また、あなたの家への電話よ」