配合などの問題は、化粧品会社の最重要課題であり、時枝秋が相手の急所を突いたため、もはや傍観することはできなかった。
時枝秋は話を続けた。「周防社長、御社の配合に少し問題があります。もしこの点を改善すれば……」
周防社長は大笑いして彼女の言葉を遮った。「木村君、この若手タレントはどこと契約してるんだ?面白いねぇ。まあいい、今日の契約解除の件は、交通費として2万円余分に出してやろう。これで終わりだ」
「周防社長……」時枝秋はまだ何か言いたそうだった。
「私には会議があるんでね、お喋りに付き合ってる暇はないんだ」周防社長の表情が一変し、笑顔は完全に消え去った。
秘書は2万円の現金を差し出し、笑顔を浮かべながらも冷たい口調で言った。「お二人とも、お受け取りください」
まるで時枝秋がこの騒ぎを起こしたのは、この2万円を余分に要求するためだったかのように。
木村裕貴は怒りを覚え、金を受け取らずに時枝秋を連れて出て行った。
ドアの向こうで、秘書の軽蔑的な視線が二人の後ろ姿を追い続けた。
木村裕貴は時枝秋に言った。「もういい、今回の件は私が適切に処理するから、君は気にしなくていい」
彼は時枝秋に腹を立てなかった。結局、最初に間違っていたのは彼女ではなかったからだ。
時枝秋は小声で言った。「彼らの配合に問題があって、特定の体質の消費者にアレルギー反応を引き起こす可能性があります」
「本当なのか?」木村裕貴は疑問形で尋ねたものの、心の中ではある程度信じていた。
主に前回のヤオランの件があったため、彼の潜在意識の中では、時枝秋のこういった奇妙な知識への理解を信頼していた。
彼は尋ねた。「本当に問題があるなら、なぜ先に私に相談して、一緒に良い方法を考えて周防社長に話すということをしなかったんだ?」
時枝秋は彼を一瞥した。木村裕貴は彼女の態度を読み取った。彼女がそのまま自分に話したとして、自分は信じただろうか?
彼は軽く咳払いをした。
時枝秋は淡々と言った。「本来なら、もっと巧妙な方法で周防社長に注意を促すこともできました。でも彼を見てください……その価値がありますか?」
木村裕貴は胸に詰まった言葉が出てこなかった。
周防社長という人物は俗物根性丸出しで、三言目には金の話ばかり。確かにその価値はなかった。