第290章 彼女が最も大切にする人

広告のために特別に制作されたこの番組は、多額の費用をかけたにもかかわらず、ライバル企業のための素晴らしい宣伝になってしまった。

斎藤心美は、上層部の前で満面の笑みを浮かべ、颯爽と歩いていた。

上層部は今、腸が青くなるほど後悔していた。今回の広告の成功は会社に巨大な利益をもたらし、目に見えない信用は他の何物にも代えがたいものだった。

そして彼らは以前、この美味しい話を自ら手放してしまった。

会社が発展すれば彼らにも利益はあるが、やはり今回の利益に直接関われなかったことは、非常に悔やまれた。

最も後悔しているのは、最近宿題ヘルパーに転職した唐沢勇だろう。

しかし、世界は敗者の気持ちを理解しようとはしない。

その夜、時枝秋もストロベリーミュージックフェスティバルでの歌唱を終えた。

藤原修が彼女を迎えに来て、低い声で言った。「今日の記者会見がもうすぐ始まります。」

成績について対応するため、木村裕貴がこの場を設定し、社会に向けて統一した回答をすることにした。

「はい、先に着替えてきます。」と時枝秋は言った。

藤原修は深い眼差しを向けた。こちらの更衣室は共用で、彼の足を止めた。

しばらくして、時枝秋が戻ってきた。

彼女は以前、キラキラしたステージ衣装を着ていたが、今は深緑のシルクシャツと黒いジーンズに着替え、珍しくヒールを履いていた。

いつもの学生らしさを洗い流し、知的な女性の魅力を帯びていた。

藤原修の視線は彼女に釘付けになり、離れることができなかった。

「服装が似合っていませんか?」と時枝秋は尋ねた。

「服は見ていない。」

つまり、彼は人しか見ていなかった。

服が似合っているかどうかは関係なく、どんなに素敵な服でも時枝秋の半分も及ばず、どんなに醜い服でも、時枝秋が着れば優雅な風采を放つのだった。

時枝秋の表情が生き生きとし、藤原修の前に歩み寄って、小声で言った。「待っていてください。」

このような時枝秋が入ってくるのを見て、その場の記者たちは一瞬驚き、そして魅了された。

時枝秋の最もシンプルな姿は見たことがあったが、このような知的な美しさは初めてだった。

とても美しかった。

時枝秋は本当に何を着ても似合う。

木村裕貴は会場の秩序を保ちながら言った。「皆さん、質問がある方は順番にどうぞ。」