第392章 最強の逆転劇

盛永空良は元々Aホールでゲストを務める予定だったが、桑原逸人の事務所が急に横やりを入れ、その席を奪ってしまった。

Aホールでゲストを務めれば、時枝雪穂との交流やカメラに映る機会が、まったく違ってくることは明らかだった。

「お姉ちゃん、もういいよ」盛永空良は姉を制し、相変わらず明るく笑って「Bホールに行こう」と言った。

盛永空良の姉はため息をつき、自分はプロではないから、桑原逸人のようなチームには敵わないと思った。

Bホールは今、閑散としていた。ファンは席を埋め尽くしていたものの、ほとんどがスマホを開いてAホールの様子を見ていた。

Aホールのチケットが手に入るなら、誰がBホールに座りたいだろうか?

Bホールの演出チームも、一生懸命に仕事と撮影を進めていたが……

配信の効果は、やはり期待通りとはいかなかった。

結局のところ、誰が無名で、かろうじて決勝に進んだ選手たちのオリジナル曲の演奏を見るために時間を使うだろうか?

盛永空良を見かけると、彼らは目を輝かせ、すぐにインタビューに駆け寄った。

Bホールの視聴状況は、少し持ち直した。

盛永空良を知る人は少なくなかったが、彼はずっと控えめで、宣伝もほとんどしていなかった。

この浮ついた社会では、人気芸能人でさえ簡単に視聴者に見捨てられる。まして彼のようなピアニストならなおさらだ。

そのため視聴状況は、依然としてAホールには及ばなかった。

Aホール視聴者数:100万人。

Bホール視聴者数:15万人。

盛永空良の姉は小声で言った。「まあまあだよ、あなたのおかげで12万人増えたんだから」

Bホールの演出チームのアシスタントが突然言った。「監督、時枝秋が来ました!」

「どの時枝秋?」監督はお茶を置き、姿勢を正した。

「選手の時枝秋です」

監督は再びお茶を手に取った。時枝秋という名前は珍しくないし、大騒ぎするほどのことではない。

「監督……本物の時枝秋です!『國民シンガーソングライター』の時枝秋!『泣かないで友よ』の時枝秋!それに『月は我が心』の……」

監督はすでにさっと立ち上がり、外に向かって歩き出した。

カメラマンたちもすぐに後を追った。

時枝秋は今日、とても控えめに来ており、事前にツイッターで一切宣伝していなかった。

すべてのファンは、このことを全く知らなかった。