翌日、時枝秋は『緊急救援』の撮影現場に向かった。
佐山忍の撮影シーンはすでに始まっていた。
さすが佐山忍、役に入るのが早く、撮影もスムーズだ。
一つのシーンが終わると、佐山忍は時枝秋の方に歩み寄り、「時枝さん、見て」と言った。
彼女は手で長い髪をかき上げ、ウィッグを外すと、頭頂部に新しく生えた髪の根元が見えた。以前の白黒まだらだった髪の根元は消えていた。
代わりに、すべて黒い新生の髪に変わっていた。
「あなたって、私にいったい何を与えてくれたの?」
まずアレルギーが治り、その後時枝秋が彼女に別の薬を渡した。今回、彼女は完全に時間通りに決められた量を服用し、人生初めての撮影以上に真剣に取り組んだ。
そして目の前で黒髪が生えてくるのを見守った。
「良いものですよ」と時枝秋は笑いながら言った。「使い続けてください」
佐山忍は気分が良かったため、撮影の進行が特に早く、役にも入り込めていた。
時枝秋が帰るとき、佐山忍は自分のマネージャーに言った。「私、この映画の出演料、少し高すぎたかしら?」
「そうですね」とマネージャーは言った。このアレルギーと白髪が治っただけでも、何本分もの出演料に値する。
佐山忍は時枝秋の後ろ姿を見つめ、何かを考えているようだった。
「時枝さんに電話してください」と彼女はマネージャーに言った。
時枝秋が去って間もなく、佐山忍のマネージャーからの電話を受けた。
「何かありましたか?」時枝秋は車に乗って、別の場所へ向かっているところだった。
「忍さんが、ジュエリーブランドの広告について、引き受けるかどうか聞きたいそうです」とマネージャーは尋ねた。
「木村さんの連絡先をお持ちですか?木村さんに送って、まず見てもらってください」
「はい」
「ありがとう」時枝秋は一言言って、電話を切った。
マネージャーは電話を切った後、佐山忍に言った。「忍さん、このジュエリーブランドはとても格が高く、すぐに国際展開する予定です。私たちも苦労してやっと見つけた案件なんです」
ジュエリーブランドの広告は常に高額な収入が見込め、宣伝力も大きく、芸能人の露出にも良い効果がある。
これを時枝秋に譲るのは、少し大きすぎる見返りかもしれない。