山田悦子は話を聞いて唖然とした……
青木岑は着替えを済ませ、マスクをつけて出てきた。「今夜の当直医は誰?」
「吉田秋雪です」
「なぜ途中で帰ったの?朝まで当直のはずでしょう?」青木岑は眉をひそめた。
山田悦子は仕方なく答えた。「院長の姪っ子だからね。誰も文句なんて言えないでしょう。用事があれば帰るのは当然よ」
青木岑は事務所の固定電話を取り、リストの番号に電話をかけた。
5秒ほど鳴った後、向こうが電話に出た。
「もしもし……」吉田秋雪が寝ていたことが声でわかった。
「吉田教授、申し訳ありませんが、手術のため戻ってきていただけませんか。妊婦さんが大量出血で危篤状態で……」青木岑の言葉が終わらないうちに。
向こうから「何時だと思ってるの、頭おかしいの」という返事が返ってきた。
そう言うと、青木岑が何か言う前に電話を切られてしまった……
青木岑は諦めきれず、もう一度かけ直したが、電源が切られていることがわかった。
吉田秋雪の家が近所にあるので、車で来れば間に合うと思っていたのに。
青木岑の医術が自信がないわけではなく、ただ彼女がいくら優秀でも看護師に過ぎない。
医師免許を持っていないため、もし冒険的な手術をすれば、リスクが大きいだけでなく、後々の問題も計り知れない。
電話を置くと、青木岑は山田悦子を見て、「悦子、私が手術をするなら、助手を務めてくれる?問題ない?」
「先輩、冗談でしょう?あなたは看護師で、医師じゃないのよ。本当に患者さんの手術をするつもり?」
山田悦子は信じられない様子だった……
青木岑は極めて冷静に、「もうそんなことは言っていられないわ。この妊婦さんは大量出血で、もう長くは持たない。私たちが見過ごせば、母子ともに命を落とすことになる」
「わかってます、先輩。私だって人を救いたい。でも私たちは医師じゃない。当直医がいないなら、どうしようもないでしょう。私も辛いけど、それに私は助手くらいしかできません。手術なんて、全然わからないし」
「あなたがわからなくても大丈夫。私がわかってるから。安心して助手を務めてくれればいい」
「でも……それでも、私たち二人だけでは手術はできません。麻酔医もいないし」山田悦子は泣きそうな顔をした。
深夜で麻酔医もいないため、山田悦子からすれば、患者を転院させるのが最善の策だった。